第二幕 サイカイ⑥
その後、市原たち犯人捜索チームが銀行に集合し、人質の安全確保や事情聴取を行った。
一方、健生は警察車両の影で晶洞からこっぴどく説教を受ける。
「健生君、あのとき私は待ちなさいと言いましたよね?」
「はい……」
「でも君は動きましたね?」
「そうです……」
「迂闊に動くと今回のように、多くの人を危険にさらすことになります。確かに、君は少しずつ任務や戦闘にも慣れてきました。ですが、まだまだです。自分の力を過信してはいけません。今回は柳さんや凛夜君が上手く動いてくれたからいいものの、一歩間違えたら大変なことになっていました。悔い改めなさい」
「はい……すいませんでした……」
今回の任務においては、健生が先走って動いてしまったことが結果的に大事になってしまった。実行犯を確保するチャンスを逃した上に、超能力を見てしまった一般人への情報操作も行わなければならない。
(完全に俺のミスだ……)
健生は俯く。今回人質が無事だったのは運が良かっただけだ。晶洞の言う通り、一歩間違えたら……。銀行内で見た怯える親子の姿が蘇る。
(怪我人がいなかったとしても……心は守れてないじゃないか……!)
自分の初任務、唯の護衛任務を思い出す。あのとき、心を守ることも任務のうちだと学んだはずだったのに。そう考えていたとき、晶洞が口を開く。
「……ですが」
「はい……」
「強盗犯に銃を向けられたとき、抵抗しなかったこと。柳さんと凛夜君が隙を作ってくれたときに人質の安全を最優先に動いたこと。この二つは評価に値します。よく失敗を巻き返しました」
「え……」
ぱっと顔を上げた。そこには、厳しい表情ながらも優しい目をした晶洞がいる。
「これから先の任務、失敗をすることもあるでしょう。ですが、大事なのは失敗した後の行動です。そして、仲間がミスをすることもあるでしょう。そのときにその失敗をカバーできる隊員になれるよう、精進しなさい」
「……っ! は、はい! ありがとうございます、晶洞さん!」
健生は謝罪と感謝の意を込めて、晶洞に頭を下げた。
晶洞はそれを真正面から受け止めた後、コートを翻して後ろを向く。
「柳さんや凛夜君にもお礼を言うことですね。二人はあっちで事情聴取を受けています。行きましょう」
「はい!」
夕日を受けながら、健生と晶洞は幸と凛夜の元へ向かう。遠くから二人が手を振ってくれているのが見えた。そんな温かい仲間たちに恵まれたことに、健生はもう一度感謝するのだった。
ここは治安の悪い繁華街。そんな夜も眠らない街の廃れたビルの地下で、男たち数人が何やら企んでいた。
「なあ、そろそろ資金集めも十分なんじゃね? 超常警察も出てきたし、転法輪も目を光らせてるみたいだし?」
ヘアバンドをつけた、トゲトゲした黒髪の青年が口にする。その青年の言葉を受けて、パイプ煙草をくゆらせた丸眼鏡のインテリ風の男がこう言った。
「とはいえ、先立つものは多いに越したことはありませんよ、レン。まだ超常警察もこちらのことを掴んでないようですし、もう少し粘ってみては」
「アマタの言う通りだぜ。びびってんのかよ、レン。ケケッ」
アマタというパイプ煙草の男の言葉を肯定しながら、全身にジャラジャラと鉄製のブレスレット、ピアス、リング、ネックレスを大量につけた青年が舌を出しながらケラケラと笑った。その舌にも鉄製のピアスがギラギラと光っている。
レン、と呼ばれたヘアバンドの青年は、ピアスの青年の言葉に気を悪くしたのか彼に噛みつく。
「はあ? 何だと? やんのかユート?」
「まあ……待ちなよ」
三人の議論を受け、奥のソファに座っていた青年が待ったをかける。その服装はテーラードジャケットにシャツと清潔なものだが、その肌は乾燥でひび割れが全身に入っていた。そのひび割れから血が滲んでおり、見るだけで痛々しい。その目元は濃い隈が染みこみ、慢性的な不眠であることが伺えた。
彼は余裕そうな態度で足を組み、その膝の上で手を組む。
「みんなの意見も分かるけど……ここは一つ……礼儀を大切にしようじゃないか」
「礼儀って……どういうことだよ、アイ?」
ヘアバンドの青年、レンはリーダー格だろうひび割れの青年、アイに質問する。
レンの質問を受け、アイはふふっと笑いながら顎に手を当てる。カサ……と乾燥した肌同士がこすれる音がした。
「そうだね……まずは甘ちゃんで有名な……超常警察から行こうか」
四人はそれなりに付き合いが長いのだろう。アイの言葉の真意を理解したレン、アマタ、ユートはニヤリ、と笑って見せるのだった。
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