第二幕 サイカイ⑤

「動くな!」

 

 そう叫んだのは集団のうちの一人。健生の気配にすぐさま気づき、銃を健生に向けてくる。

 

「クソっ……!」

 

 健生はとっさに手を上げた。今下手に能力を使えば、周囲の人にも危害が及ぶ。それを合図と言わんばかりに、集団はマスクやフード、サングラスを外して見せた。彼らは予想通り、全員同じ顔の、全員同じ人間だった。その集団が次々と銃を取り出し、係員や利用客にそれを向ける。

 

「ふえ……ふええええええん‼」

 

 危険な雰囲気を察知した赤子が泣き始める。それを皮きりに、銀行内全体がパニックに陥った。


「全く、これだからお人よしなんですよ……!」

 

 晶洞は「ちっ」と舌打ちした。自分がもう少し強めに健生を止めるべきだった!


「全員一か所に固まれ! 少しでも怪しい動きをしたら撃つからな!」

 

 リーダー格の男(全員顔が同じなので誰がリーダー格なのか推測するしかないが)がその場の全員に指示を出す。健生や晶洞もこれだけの人質を取られてしまっては、派手に動くことはできない。


「お前は金庫から金を持ってこい! 急げ!」

「はっ、はい!」


 一人の銀行員が男からバックを手渡され、金庫へと駆け出していく。このままでは、奴らの思うつぼだ。

 

「こわいよお、ママああ!」

「おい、そこの女! ガキを黙らせろ、うるせえぞ!」

「はっはい! 大丈夫だからね……大丈夫よ……」

 

 子どもが恐怖で泣き出す。それを落ち着かせる母親の声も震えている。健生の心に、じわじわと後悔と焦りが滲みだした。

 

(俺のせいだ……俺が先走ったから、こんなことに……!)


 反撃をしようにも、人質をあまりにも多くとられ過ぎた。一体どうすれば。

 健生がそう思考を巡らせていたときのことだ。

 

「ん……? 何だか寒くねえか……?」

 

 強盗犯の一人が鼻をすすりながら仲間に問いかける。仲間たちもそれを肯定するようにうなずいたり、服を着こんだりする。その直後だった。

 

「ぐえっ!」

「がはっ!」

「な、何だ⁉」

 

 強盗犯が一人、また一人と倒れていく。だが、攻撃している者の姿は見えない。

 

(幸さんと凛夜君だ……!)

 

 二人が作ってくれた糸口を逃す健生と晶洞ではない。

 健生は素早く腕を増やして人質を覆うバリケードを作り、晶洞は体を結晶化させて幸に加勢する。

 

「こいつら、超常警察だ!」

「撃て!」

 

 強盗犯たちは健生や晶洞に向かって発砲してくるが、この二人に銃弾はほとんど効かない。健生は腕を増やして人質を守り切り、晶洞は銃弾をはじき返す勢いで相手に蹴りを叩きこんでいく。

 このときに、不思議なことが起こった。蹴りを叩きこまれた男たちが、銃だけを残して霞のように消えたのだ。

 

「これは……!」

 

 幸が攻撃したであろう男たちも同様に、一定のダメージを喰らうとその姿を何もいなかったかのように消した。分身が消えたのだ。

 

(つまり、ここに実行犯の本体はいない……!)

 

 その様子を見て、健生はピンとくる。相手は確保されるリスクを抱えることなく、今回の犯行に臨んだということだ。

 

「本体を探さないと……!」

 

 健生はそう言うが、その積極性は今度こそ晶洞に止められる。

 

「いいえ、今は人質の安全が最優先です。……市原君たちに来てもらいましょう」

 

 強盗犯たちを片付け終わった晶洞は、トレンチコートを不機嫌そうに羽織りながら健生にこう答えるのだった。

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