第二幕 サイカイ④
そして今、会議室での状況に至る。
彼らは交流試合で痛い目にあったこともあるのだろう、会議には大人しく参加していた。だが、伊吹と水戸はあからさまに不機嫌な様子を見せ、中津はずっとびくびくしている(凛夜も健生の隣でびくびくしている)。真面目に会議の内容に耳を傾けているのは立花くらいだ。
会議を進行するのは、第一班の指示役、市原。
「……え~、今回は人数がめっちゃ多いけど、それだけ人手が必要になる任務や。みんな、心して聞いてや」
そう言って市原は、ホワイトボードに一枚の写真を貼る。そこには、ヘアバンドをつけた荒々しい表情の青年が映っていた。
「この男は、昨日駅前の宝石店に入った強盗犯や。集団で犯行に及んで、店から金品を盗んでった。白昼堂々な。ここまでやったら普通の警察に任せるところやけど……これ見てな」
次に市原が貼った写真は、異様なものだった。強盗犯は集団で宝石店に押し入ったらしいが、その強盗犯全員が同じ顔、同じ背丈をしている。それは、一卵性双生児などという言葉では片付けられないほど、同じ人間が複数人映っている写真だった。
「これって……」
健生がつぶやくと、市原は頷く。
「もう分かっとるな? これは十中八九、能力者の仕業……それも、分身とかそのあたりのヤツやろうね。しかも、同時刻に同じような被害に遭った店が他にもある。この時点でもう超常警察の管轄や」
市原はホワイトボードに貼ってある地図に、被害に遭った店の位置に赤ペンで丸をつける。三店舗ほどだったそれは、距離も位置関係もバラバラだった。だが、市原はその三店舗が含まれている地区と、逆に離れている地区に大きく丸をつけた。
「この手の輩は大体なんかの組織に属しとって、資金集めをしとることが多い。今丸をつけた地域を巡回して、犯人を確保、そんで被害を未然に防ぐで。今から言うメンバーで、それぞれの地域に分かれてもらうからな。まずは……」
市原の采配により、健生のチームは幸、凛夜、晶洞の四人組となった。晶洞がいれば学生組の訓練にもなるということだろう。そんな彼らは、被害にあった三店舗が集中していた地区に配置された。
「さて、それでは学生の皆さん!」
男物のトレンチコートに、マスクとサングラスをかけた不審者スタイルの晶洞が指示を飛ばす。
「今回の任務は周囲の警戒、そして犯人の確保です! 凛夜君は慣れない任務で不安でしょうが、健生君と柳さんが先輩としてフォローしてくれます! 安心してください! 健生君と柳さんは先輩として凛夜君にお手本を見せる気持ちで臨むこと! いいですね!」
『了解!』
「りょ、りょうかい!」
健生と幸の号令に、凛夜もたどたどしくだがついてくる。少しずつ超常警察に馴染みつつあるらしい。晶洞はそんな学生組の様子を見て満足気にほほ笑むと、「行きますよ!」と先陣を切って歩き始めた。
ちなみに周囲は通常の警察も巡回しており、何故か晶洞が職務質問を受け、その度に超常警察の手帳を見せる羽目になった。彼女の服装を考えれば当然だと思うが、その言葉を健生はぐっと飲み込むのだった。
「全く! 何で私が事情聴取を受けないといけないんですか⁉ 私はどっちかというと仲間側なのに!」
「え、ええっと、晶洞さんのその恰好が……」
「恰好が……?」
「ひえっ! な、何でもないです!」
「凛夜君、晶洞さんの服装にコメントしちゃいけない。してもいいのは全裸の時だけだよ」
「そうですね。服を着てくださってるだけありがたいです」
「ぜ、全裸⁉ え、どういうこと⁉」
凛夜はおろおろしているが、いずれ彼も晶洞の特訓を受ければ分かるときが来るだろう。
そんなことを思いながら巡回していると、健生の視界に不審な集団が映った。一見すると、似た服装を着ている数名の団体に見えるが、全員がフードやマスク、サングラスで顔を隠している。おまけに、全員が似た背丈で、大きなカバンを背負っている。
「晶洞さん、あそこ」
「……よく気づきました、健生君。柳さん、市原君に連絡を。私と健生君で後をつけます、凛夜君は連絡が終わった柳さんと一緒に来てください」
『了解』
「はっ、はい!」
そうして健生は、晶洞とともに距離を保ちながら集団の後ろをついていく。集団は特に会話を交わすこともなく、黙々とどこか目的地を目指して歩いているようだった。やがてその行く先に見えたのは……銀行。
「晶洞さん、確保を」
「ダメです、ここでパニックになっても危険ですから。様子を見ましょう」
集団が銀行に入っていくのに合わせて、健生と晶洞も後を追う。中は一般の利用客も多く、中には赤子を連れた母親もいた。
(もしこんなところで能力なんかを使われたら……!)
健生はぞっとする。何も知らない無邪気な赤ん坊が、健生の顔を見てにこっと笑う。
「晶洞さん、もう待てません」
「健生君。待ちなさい、健生君!」
晶洞の制止を振り払い、健生はそっと集団に近づいていく。嗅覚や聴覚を強化してみると、火薬の匂いがした。
(やっぱり……!)
やはり、何かある前にここで確保しなければならない。
健生は集団のうちの一人に素早く手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます