第二幕 サイカイ

第二幕 サイカイ①

 一との一件が上手くいかなくても、健生には他の任務がある。それを私情でないがしろにするわけにはいかない。ということで、健生は任務の会議に参加しているのだが……。


(何かすごく気まずいんだけど⁉)

 

 それもそのはず、彼の目の前には、バカンスで確保された過呼吸の能力者の青年、泣き声の能力者の女性、そして暗殺依頼の一件で会ったフェロモンの能力者と彼女に付き従うスキンヘッドの男性が座っていた。

 つまり、これまで確保した実行犯たちも一緒に会議に参加している。

 何故こうなったかというと、時間は少し前にさかのぼる。

 

 

 健生たち前衛組が談話室に集まっていたときのことだ。

 

「こんにちは~……第一班の前衛の皆さん、いる~……?」

 

 姿を現したのは、バカンスのときに任務を引き継いでくれた第二班の班員。たれ目とゆるふわな髪の毛、眠そうな表情が特徴的な女性、百瀬陽毬(ももせひまり)だ。

 

「百瀬先輩だ~、お久しぶりです~!」

 

 彼女に気づいた古賀が駆け寄ると、二人は可愛らしくゆるやかなハイタッチをする。どうやら仲が良いらしい。

 

「古賀ちゃんお久しぶり~……むにゃ……あ、あと、第三班の折部(おりべ)君も来てるの……」

 

 百瀬がそう言うと、扉の影から一人の男性がひょっこりと顔を出す。


「ちわっす、第一班の皆さん! お久しぶりっすねえ! 折部直仁(おりべなおひと)でえ~す! あ、噂の健生君は初めまして~」

「あ、どうも、冨楽健生です……」

「めっちゃ真面目そうじゃん! いい子~!」

 

 そんな彼の風貌はいかにもなチャラ男。ワックスで整えられた髪の毛は茶髪に染められ、へらへらとした表情が彼の印象を更に軽薄そうに見せた。体格は一見細身だが、袖からちらりと見える腕がしっかり鍛えられた肉体であることを表している。

 

「二人が一緒にいるなんて珍しいですね、何かあったんですか?」

 

 晶洞が百瀬と折部に不思議そうに質問する。百瀬は第二班、折部は第三班の所属だという。ただでさえ所属が違う二人が一緒に第一班の持ち場へやってきた。これは珍しいどころの話ではないだろう。

 晶洞の質問に、折部が答える。

 

「晶洞さんもちわっす! いや、今度の任務なんすけど、手が足りないからって、百瀬さん第二班の班員と、オレら第三班の班員も駆り出されることになったんすよ! それで、良ければご挨拶にって!」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 晶洞は折部の説明に納得する。だが、納得いかない……というか、衝撃的なのはここからだった。

 

「で、この前のバカンスと暗殺依頼騒ぎで第一班が確保した実行犯がいるじゃないっすか。あの人ら、第二班と第三班に所属して、今回の任務に参加することになったんで」

『……は?』


 第一班前衛組の「は?」が重なる。このチャラ男、今何て言った?

 

「だーかーらー、皆さんが今まで確保した……」

「いや待って、分かっとる、分かっとるんやけど……。そないに人員不足なんか超常警察は……」

 

 市原は頭を抱え、確保された実行犯と顔見知りの凛夜は市原の影に隠れて「ひええ」と震えた。そんな市原に、百瀬が声をかける。

 

「安心して……何かあったら……私たちが無力化するから……むにゃ……」

「いや……えっと、うん……ありがとうな百瀬ちゃん」

 

 市原は諦めたように百瀬に応える。

 

「ちなみに……顔合わせのために……みんな連れてきた……むにゃ」

「……勘弁してくださいよォ、百瀬さん」

 

 思わず桂木が本音を口にする。心が追いついていないのもそうだが、どう考えても人が多すぎる。キャパオーバーだ。

 

「大丈夫……みんなちょっとずつ……むにゃ……名前、覚えたらいい……」

「多分そういう問題でもないと思います」

 

 健生もついにツッコミを入れてしまう。隣にいる幸はすっかり警戒態勢だ。

 

「んじゃそういうことで。は~い、入ってきてくださ~い」

 

 折部が第一班の班員を置き去りにし、奥に控えているだろう元実行犯たちを部屋に招き入れた。

 

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