第一幕 トリシラベ④
そう言って稲垣は医務室に溜まっていた健生たちを部屋から追い出した。
取調室に戻る最中、吉良が市原に話しかける。
「そうだ、市原君。神木茜ちゃんなんだけど、あの子、ずっと超能力を使ってたみたいなのよ。だから能力を使っていない今、副作用が一気に抜けたのと、疲れが出てて、ずっとぼーっとしてるの。取り調べはまだ厳しいかもしれないわ」
「さいですか。まあ、そこは回復を待つしかありませんね……」
そうして取調室……正しくはその隣の部屋に戻ると、冬樹が待ちくたびれたように椅子に座っていた。
「あ、お帰り、市原さん、健生」
「ただいま、冬樹君」
「ただいま~……って若松君、データの整理は?」
「もう終わったよ」
「……若松君、超能力使うたな?」
市原に聞かれ、冬樹はぺろっと舌を出す。前回の文化祭の一件で冬樹に覚醒したのは、超能力『情報処理』である。いわば、彼自身がとんでもない性能を持つスーパーコンピューターになるようなものだ。以前のような大量の映像も、彼一人で処理し、必要な情報を抜き出すことができる。だが、そんな凄い能力、副作用がないわけがない。体には相応の負荷がかかるそうだ。
「……実際楽だし」
「アカン。バカンスのときの古賀ちゃん見たやろ、ああなるで」
「はーい。……彩川さんは?」
「彩川さんなら古賀さんと帰ったよ。……一時的に視力がなくなったみたい」
「……ふ~ん」
健生が彩川の現状を伝えると、冬樹は興味のない風を装って答える。日頃から後方支援組として仕事を一緒にこなし、バカンスでは一緒に死線を潜り抜けたのだ。彩川の容態に、興味ないわけがなかった。
「ま、ボクにできることはほとんどないしね……」
冬樹は椅子に深く座り込み、ぽつりと呟いた。この言葉もまた事実で、健生たちにできることは現状、ほとんどないのだ。特に、前線組は後方支援組との仕事内容も異なる。自分にできることなんてないだろう……健生がそう思っていた矢先だった。
「なあ、健生君。ちょっとええかな?」
市原が健生に声をかけてくる。
「あ、はい。何ですか、市原さん」
健生が聞き返すと、彼は言いづらそうに頭を掻く。
「こんなときに何度もごめんな……もし健生君にその気があればでええんやけど、犬塚一と面会してみいひん?」
「一と面会?」
「市原先輩、それは……」
健生の隣にいた幸が市原をたしなめるが、市原は続ける。
「実質、犬塚の取り調べでは何も分かっとらん。んで、神木茜も取り調べできんってなるとちょいと痛手なんよ。犬塚は健生君に思うところがあるようやし、健生君もそうやろ? 面会でもしたら、何か分からんかなって思て。取り調べとか難しいこと考えんでも、ただ話したいことだけ話してくれたらええよ。断ってくれても大丈夫やけど……どうする?」
健生は、護の言葉を思い出す。
『では、これから友達になれますな』
きっと、一ともう一度友達になるには、ここは逃げてはいけないところだ。
健生は覚悟を決めると、市原の問いに答える。
「俺からもお願いします。一と面会させてください」
「健生様……」
幸がどこか不安そうな顔で見てくるが、そんな彼女を落ち着かせるように健生はほほ笑む。
「大丈夫。念のためでいいから、幸さん、面会室の外に控えてもらっててもいいかな? 何かあったら呼ぶから」
「しかし……」
「お願い」
「……かしこまりました。くれぐれも、ご無理はなさらないよう」
「ありがとう」
そんな二人のやり取りを、市原はもうご馳走様です、といった風に見守っていた。
「ほな、行こうか。古賀ちゃんは帰ったから、晶洞ちゃんに犬塚の監視頼も」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます