第二幕 ブンカサイ②

 場所は変わって、恋羽のクラスのメイド喫茶。

 健生と幸が彼女のクラスを覗いてみると、恋羽が可愛らしいメイドの恰好で、桂木と若松の注文を聞いていた。

 

「服似合ってんな、恋羽」

「ありがとうございます、桂木様!」

「馬子にも衣装」

「若松様、それは誉め言葉ではありませんわ!」

 

「やあ、恋羽ちゃん」

「恋羽さん、お疲れ様です」

 

 健生と柳が彼女を呼ぶと、三人の視線が二人へと、二人の繋がれている手へと注がれる。三人は「ほほーう」とニヤニヤした笑顔を浮かべると、健生と幸に声をかけた。

 

「お兄様とお姉様! 来てくださったのですね! おかえりなさいませ、ですわ!」

「健生と柳も仮装すげェな……お疲れさん」

「……ボクは何も突っ込まないよ。護は?」

「護は今お化け屋敷で演出やってるよ」

「……ふーん」

 

 若松は護とゲームの話をしたかったのだろう、どこか残念そうな様子で端末へと視線を戻す。

 若松とのやり取りが終わると、恋羽が健生と幸を席へと案内し、座らせた。


「お兄様とお姉様もせっかくですし、ゆっくりしていってくださいませ! ご注文はいかがいたしますか?」

「そうだなあ、幸さんもメニュー見る?」

「ありがとうございます……」

 

 健生と幸が席に腰掛け、落ち着いたそのときだった。

 

 バァン!


 教室のドアが勢いよく開かれる。


「恋羽~! 愛しのお姉様が貴女の晴れ姿を見に来ましてよ!」

 

 現れたのは炎の美女。ついこの間健生たちも会ったあの美女。

 

「お、凰華お姉様⁉ 来てくださったのですか⁉」

「て、転法輪凰華⁉」


 恋羽もまさか転法輪凰華が来ると思っていなかったのだろう。超常警察の関係者は目立たないように戦闘態勢になる。周囲の野次馬は、凰華の美貌に「ほう……」と息を呑むばかりだ。

 そんな周囲の……特に超常警察の様子を見て、凰華は扇子をパチン、と閉じる。

 

「全く、血気盛んですこと。今日は恋羽の様子を見に来ただけですわ。恋羽、席に案内して頂戴」

「はっはい!」

「……お前ェが何もしないって保障なんざ、どこにもねェだろ」

 

 優雅に席に座る凰華に、桂木が一言牽制する。それを受け、凰華はふふっと笑って見せた。


「確かにそうですわね。でも、ワタクシ以上に扱いづらくて、理性がなくて、おまけに恋羽を目の敵にしている愚弟がいるでしょう?」

「……転法輪虎徹のことですね」

 

 健生がそう言うと、彼女は肯定するように目をふせた。

 

「ワタクシがここにいれば、虎徹も派手には動けないでしょう。せっかく恋羽がワタクシに給仕をしてくれる機会、虎徹なんかに邪魔なんてさせませんわ」

「凰華お姉様……!」

 

 先日の暗殺依頼では色々とあったが、彼女は彼女なりに妹のことを想っているのだろう。その形が家庭の影響で少し歪んでしまっただけで。

 健生はそんなことを思いながら、恋羽と凰華のやり取りを幸とともに見守るのだった。



 健生と幸が文化祭を回っていると、あらゆるところで超常警察の面々と顔を合わせた。クイズラリーの出し物では新田と山下が顔を合わせながらクイズに取り組んでおり、手作り迷路の教室では、健生たちと同じく手を繋いで出し物を楽しむ彩川と古賀に出会った。彼らは健生と幸が手を繋ぐ姿を見ると、ほのぼのとした笑みを浮かべながら「お幸せに」と言ってくれるのだった。

 ちなみに、市原とは縁日の出し物をしているクラスで顔を合わせた。健生と幸は、そこで市原が以前言っていたサプライズの意味を知ることになる。

 

「け、健生君、久しぶり……」

 

 彼は相変わらず寒さにガタガタと震えながら、市原の背からひょっこりと現れた。季節外れのスキーウェアに身を包んだ、小柄で怖がりな少年。

 

「凛夜君!」

 

 健生がバカンスで保護した少年、氷室凛夜の姿がそこにはあった。

 

「サプライズって、凛夜君のことだったんですね」

「せやで~。凛夜君は取り調べでもたくさん協力してくれたからなあ。落ち着いたら第一班の班員になってもらうことになったで」

「二人ともよろしくね……。あ、あと、仮装、とてもよく似合ってる……」

「凛夜君こそ、大変なときに来てくれてありがとう。文化祭の雰囲気、疲れたりしない?」

「人込みは疲れる……けど、市原さんもいるし、ちょっと楽しいかも……」

 

 彼はへへ……と可愛らしい笑みを浮かべる。そんな彼の様子を見ながら、あのとき凛夜と対話を試みて良かった、と健生は思った。


「せっかくだし、みんなで縁日の出し物やっていこうよ、凛夜君」

 

 健生が彼を誘うと、凛夜は「えっ」と驚きを見せた。

 

「いいの? え、えっと……健生君は、柳さんとその……で、デートしてたんじゃ……」

「そ、そうだけど……こうやってみんなで過ごす時間も大切だよ。だって凛夜君、これから俺達の仲間になるんだし。幸さんも、いいよね?」

「もちろんです。よろしくお願いいたします、凛夜さん」

「凛夜君、ここは甘えさせてもらい。せっかく文化祭来たんや、みんなで楽しも」

 

 全員から後押ししてもらい、凛夜の表情は戸惑いから笑顔へと変わる。

 

「う……うん! ぼくもやる!」

 

 そこからは、市原と幸が射的で無双したり、健生と凛夜で輪投げの得点を競ったりと、楽しい季節外れの縁日を楽しんだ。凛夜は縁日など行く機会がなかったのだろう、慣れないながらも文化祭を楽しむその様子に、全員の心は温かくなるのだった。

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