第二幕 ブンカサイ

第二幕 ブンカサイ①

「お~ば~け~だ~ぞ~!」

「きゃあああ‼」

 

 文化祭の日。

 二年生のある教室から悲鳴が聞こえてくる。健生たちのクラスが催した西洋風お化け屋敷だ。細かい装飾や演出、何より演者の特殊メイクがすごいと反響が反響を呼び、健生のクラスの出し物には続々と観客が押し寄せていた。

 

「良い感じじゃねえか、健生!」

 

 後ろに控えている、フランケンシュタインに扮した雄馬がひそひそと声をかけてくる。

 

「人を怖がらせるのって気が引けるけどね……」

 

 そんな雄馬に応えるのは、本物のツギハギを全身にたたえた健生だ。こちらはもう特殊メイクなどという次元ではない。どこからどうみてもフランケンシュタインそのものだ。

 健生と雄馬がこそこそ話をしていると、パタパタ……というスリッパの音が聞こえてくる。どうやら、次のお客がやってきたようだ。

 

「お、次来たな。交代までもう少しだ、頼むぜ、健生」

「オッケー」

 

 健生は墓石の装飾の後ろに隠れて客人を待つ。パタパタ……というスリッパの音が墓石の前で止まった。


(今だ!)

 

「お~ば~け~だ~ぞ~!」

 

「はい、こんにちは」

 

 そこにいたのはサングラスにマスク、男物のトレンチコートを羽織った女性。

 ……ものすごく見覚えのある女性。

 

「しょっ、晶洞さんんんん⁉」

 

 のけ反るフランケンシュタイン。一方、口裂け女のような出で立ちの晶洞は彼に一切怯むことなく、にこやかに挨拶してみせるのだった。




「気配でバレバレでしたよ、健生君。もっと任務のときみたいに緊張感持たないと」

「いや、これ文化祭の出し物なんで……」

 

 雄馬とフランケンシュタインの役を、美緒とコープスブライドの役を交代してもらった健生と幸は休憩に入り、教室の外で晶洞と話す。晶洞の後ろには、怖がる吉良が引っ付いていたらしい。吉良は二人の仮装を見てハイテンションだ。

 

「健生君、自分の素材を生かしてるって感じのメイクが素敵ね! 柳ちゃんも、とっても綺麗でこわ~いコープスブライドだったわあ! 気づいたらひっそり隣に立ってるんだもの、私びっくりしちゃった!」 


 健生はボロボロの服を纏い、頭にはボルトのカチューシャをつけて仮装している。その肌は特殊メイクを施されているため青白い。

 一方柳は、健生と同じくボロボロの白いドレスにベール、枯れた花束を持っている。特殊メイクはあえて最小限にし、彼女自身の美しさを生かしたコープスブライドだ。


「ありがとうございます、吉良先輩」 

「何だか、晶洞さんと吉良さんが一緒に行動しているのって珍しいですね」

 

 健生は素直な疑問を口にする。晶洞は前衛、吉良は後方支援の仕事がメインだ。二人が一緒に行動している姿を見ることはほとんどない。

 

「文化祭はいろんな人が来ていますからね。第一班の全員を駆り出さないと、巡回ができないんですよ」

「そこで、今日は私と羅輝ちゃんがペアで動くってわけ! まるでデートみたいで嬉しいわ、羅輝ちゃん!」

「吉良さん、任務中ですよ! 真面目にやる!」

 

 デート。

 

(そういえば、休憩中に文化祭回ろうって誘ってない……)

 

 健生がちらり、と幸を見ると、彼女はきょとんとした様子で健生にまなざしを返す。

 

(可愛い)

 

 青白いはずの健生の顔が赤くなる。今度は無意識に「可愛い」と言わなかっただけ、進歩していると言えるだろう。

 そんな健生の様子を見た晶洞と吉良は「おや?」と顔を合わせる。そして大人として気を利かせたのか、晶洞がこう提案した。

 

「二人もこれから休憩でしょう? どうせなら、二人で文化祭を回ってみてはどうです? 任務の手助けもできて、一石二鳥ですよ」

「あっ、えっと、そうですね! それでどうかな、さ、幸さん」

「そうですね。そうしましょう」

 

 健生が柳のことを「幸さん」と呼んだことが決定打となったのだろう。晶洞と吉良はにっこりと全てを察した笑みを浮かべた。晶洞は巡回に戻る前に、健生に一言釘を刺す。

 

「青春も大切ですが! 学業や任務も忘れないように、ですよ、健生君!」

「はっ、はい!」

 

 そう言い残すと、晶洞と吉良は去っていった。その場に残されたのは、健生と幸だ。

 

「えっと……どこから回る?」

「では、恋羽さんのところはいかがでしょう? 確か、メイド喫茶をすると言っていました」

「そうだね、そうしよっか」

 

 健生はさりげなく幸に手を差し出す。幸はその手を見て、優しく、だがしっかりとその手を握るのだった。文化祭後、学内でフランケンシュタインとコープスブライドのカップルを見た、と情報が飛び交うのはまた別の話。

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