第四幕 ウラシャカイ③

 後方支援組が夜なべ仕事に勤しんでいた頃、恋羽はこっそりと冨楽家から外出していた。とある人物との待ち合わせに行くためだ。

 時間は深夜。周囲の音に戦々恐々としながら、恋羽は自転車で駅前まで向かった。以前までは高級車で移動していたのに、未来というのはどうなるか分からない。だが、肌で夜風を切る感覚は不思議と嫌いではなかった。

 駅前に近づくと、そこには治安の悪い繁華街がある。眠らない夜の街だ。ここからは自転車を適当なところに置いて、徒歩で移動する。そこは酔っ払いや連れ立って歩く派手な二人連れが多く、恋羽は明らかに浮いていた。道端の男性から「お嬢ちゃん迷子~?」とからかわれながらも、彼女は待ち合わせ場所である路地裏を目指す。どんどん人通りが少なくなり、今度は違った意味で治安の悪さを感じさせた。

 待ち人は、そんな夜の街の路地裏にひっそりと立っていた。

 彼は恋羽の足音を聞くと、丸いサングラスの奥にある鋭い眼光をこちらに向ける。


「アイヤー、恋羽、久しぶりネ」

「情報屋さん……いえ、蜘蛛さん、お久しぶりですわ」


 真っ黒な髪の毛に丸いサングラス、耳元には大量のピアスがついている。蜘蛛の巣柄の羽織をひらり、と羽織り、ハーフパンツに手を突っ込んでいる若い青年。その足元は高めの下駄だ。彼は裏社会の情報屋。通称、蜘蛛と呼ばれていた。


「ずいぶん感じ変わったネ、普通の女の子みたいヨ」

 

 彼はカラカラ、と八重歯を見せて笑う。恋羽の現状について、情報屋である彼が知らないわけはないというのに。恋羽は裏社会の人間特有の雰囲気に気圧されながらも、蜘蛛に応えて見せる。


「生憎、今の方が性に合ってますの。それよりも、お仕事のお話をしませんこと?」

「お仕事……お仕事ネ。一応聞くケド、何を知りたいノカ?」

「転法輪家三男……転法輪虎徹(てんほうりんこてつ)の連絡先を」

 

 蜘蛛は恋羽の要求を聞くと、「ハア……」と呆れたようにため息をつく。

 

「恋羽、悪いコト言わない。やめとくアル」

「いいえ、引きません」

「大体、恋羽は既に勘当されてるネ。このまま平和にのんびり暮らせばヨロシ、何故戻ろうとスル?」

「それが今の私にできることだからですわ」

 

 どうやら能力も持たないこの少女は引くつもりがないらしい。それを感じ取ったのか、蜘蛛はあからさまに面倒くさ~、という表情をした。


「ハア~、平和ボケって恐ろしいネ。ちなみに、ワタシは教える気、ないヨ」

「どうして……!」

「今の恋羽に報酬が払えると思えないアル。それに、教える必要なさそうネ」

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