第四幕 ウラシャカイ②
若松冬樹。彼の両親は、ことごとく自分の子どもに興味がなかった。
学校には行かせてもらった。食事も不自由なく与えてもらった。だが、抱きしめられた記憶はほとんどなかった。彼はいつも何かに飢えていた。
両親を振り向かせようと子どもなりに勉強、運動を頑張ってみたが、その努力は全て水の泡。両親は彼の相手をすることが面倒になったのか、彼にパソコンを買い与えた。それが全ての始まりだった。彼にとって、パソコンが唯一の、両親の愛情を感じられるものとなった。そこに愛情など微塵も存在しなかったのに。
パソコンが関わることについてなら何でも勉強した。構造についても、プログラミングについても、本当に何でも。飢えた心に、知識はよく馴染んだ。だが、どれだけ勉強して、どれだけ難しいプログラムが組めるようになっても、両親は褒めてくれない。ここで学びを得た少年は一つの解に辿り着く。
褒められる行為と、逆のことをすれば良いのでは?
あの両親のことだ、ちょっとやそっとのことじゃ何も言ってくれないだろう。
やるならとことん。とことん大きなことを。とことん大きないたずらを!
そこで少年は、とある警察組織のデータベースをハッキングした。もちろん、警察だって無能じゃない。警察、超常警察は素早く少年の身元を特定し、彼の確保へと漕ぎつけた。少年の両親は、息子が逮捕されたことには驚いたらしい。だが、それだけだった。自分を叱るでもなく、引き留めるでもなく。両親が言ったのはただ一言。
「どうぞ、連れて行ってください」
ああ、またダメだったか。
そんな罪の意識も何も抱かない少年は、ハッキングの才能を認められ、超常警察の元で働くことになったのだった。
(彼も難儀というか、なんというか……能力に目覚めてないのがまだ救いか)
彩川はその目で若松の精神状態を確認する。パソコンや電子機器に向かっている際の若松は、手出しできないほどの集中力を発揮する。今もまさにその状況。余計な色など感じない、どこまでものめり込んだ、ある意味狂信的な色をしていた。
「彩川さん」
「……ああ、どうしたの、若松君」
「今からデータ印刷するから、依頼人に見てもらって」
「分かった。ありがとう」
彩川の言葉に何も返すことなく、彼は再度パソコンに向かってしまう。まるで、知らず知らずのうちに周囲をシャットダウンしてしまっているようだ。
(せめて、人ともっと繋がる機会があればなあ)
そんなことを思いながら、彼は印刷されたデータを忠臣に手渡すのだった。
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