第四幕 ウラシャカイ
第四幕 ウラシャカイ①
視点は恋羽に変わる。
恋羽は、日々の特訓で疲れ切っている健生の力となるべく、ある行動をとろうとしていた。というのも、先日冨楽家を襲ったあの暴風。それを操る超能力者に、恋羽は心当たりがあった。
(何とかお会いして、依頼から手を引くようお願いしなければ……)
彼女は一人になった冨楽家の自室でスマホを握りしめる。
自分に危険が及ぶのは仕方ない。実の母親と死に別れ、転法輪の家に入ってからはそういう世界で生きてきた。だが、この家の人たち……新しい家族は別だ。この人たちは、表の世界で生きていかなければいけない。そんな、ひだまりのような人達なのだ。
(お義父様やお義母様……お兄様にお姉様、そして唯ちゃん……この方々に手出しはさせませんわ)
彼女はスマホを握りしめる。そのスマホは、かつての家族に繋がることはない。だが、彼女は転法輪に繋がるもう一つの連絡先を知っていた。
(あの方にお会いするのは気が進みませんが……仕方ありませんわね)
そう覚悟を決め、恋羽はとある人物に連絡をする。
「お久しぶりですわね……貴方に依頼をしたいんですの、情報屋さん」
超えてはいけない一線。
裏社会への一線を、恋羽はこのとき超えてしまったのだった。
一方超常警察本部では、第一班の後方支援組が唯の父親である清水忠臣(しみずただおみ)とともに、企業の不正の証拠を探していた。忠臣は、班員に申し訳なさそうに頭を下げる。
「超常警察の皆様、この度はご協力いただき本当にありがとうございます」
「そんな、顔を上げてください清水さん。僕らも任務ですから」
それを彩川が止め、新田も同じように頷く。
「そ、そうです、清水さん。貴方のように清らかな御父上を持って、唯さんは幸せです」
娘の話題が出ると、忠臣は苦笑しながらネクタイを直した。
「いえ、私はそんな良い父親ではありませんよ……。妻が亡くなってからというもの、唯には寂しい思いばかりさせてしまって……今回も、怖い経験をさせてしまいました」
脅迫状が届いたときのことを思い出しているのだろう、忠臣は目をぎゅっと瞑る。
「私がもっと早く、もっと多くの証拠を掴んでしかるべき場所に提出していれば……! 唯はこんな経験せずに済みました。今でも、きっと怖がっていることでしょう……」
あの娘は、まだ幼いですから。
そう言い、忠臣はがっとパソコンに向かう。
「皆様ばかりにお願いをしているわけにはいきません。私も最善を尽くします」
そうやって作業を進める忠臣を裸眼で見ながら、彩川はこんなことを思う。
(本当に……この目で視ても清らかな人だな。こんな人が両親だったら、自分は今ここにいないだろうに)
一瞬過去がフラッシュバックしかけたのを抑え、彩川も作業へと戻ろうとする。が、その前に一言、忠臣に伝えることがあった。
「そうだ、清水さん。ハッキング系統の作業は彼、若松君に任せてあげてください。彼はその道の天才ですから」
「若松さん……というと、あの方が?」
忠臣の視線は、部屋の隅でパソコンに向かう若松へと向かう。若松は今年で十六歳。大人から見ればまだまだ子どもの年齢だ。顔に疑問符を浮かべる清水に、彩川は説明をする。
「はい。そもそも、未成年の彼が超常警察に入った理由は、そのハッキングですからね」
そんな大人たちの会話など聞こえていないのだろう、若松は夢中で、何かに取りつかれたようにキーボードを叩いていた。
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