第四幕 ウラシャカイ④

「え……?」

 

 それはどういうこと、と聞こうとした瞬間だった。

 

「きゃあっ……!」

 

 狭い路地裏に竜巻が渦巻く。目にゴミが入らないよう庇いながら、恋羽は上空を見上げた。そこには、緑色のスーツに身を包んだ、オールバックの銀色メッシュの青年が竜巻に乗っていた。上空からでも分かる憎悪のこもった目つきに、恋羽は思わず一歩後ずさる。

 

「虎徹お兄様……!」

「俺を兄と呼ぶな、汚らわしい妾の子が」


 青年は竜巻を徐々に小さくして、地上にふわりと着地する。その顔は苛烈な性格がにじみ出ており、左目には大きな傷跡が入っていた。そのせいか、左目は閉じられている。彼は開いている方の右目で、横に佇む蜘蛛をじろり、と睨んだ。

 

「おい、蜘蛛。何でコイツがここにいる? 返答次第では容赦しない」

「偶然偶然、仕事が時間差でダブっただけアル。そんなに怒らない、幸せ逃げるヨ」

「チッ……! おい、お前。さっさと俺の目の前から失せろ。今なら見逃してやる」

「いいえ、行きません」

「……何?」

 

 反抗的な態度の恋羽に、虎徹の顔に青筋が浮かぶ。

 恋羽はそんな彼の高圧的な態度にも屈せず、声を上げる。

 

「虎徹お兄様、超常警察から手を引いてくださいませ!」

 

 その言葉を聞いた虎徹は、一瞬固まる。この無力な小娘が、自分に歯向かっているという現実を受け入れられないように。だが、それはほんの一瞬のこと。すぐに冷徹な表情を取り戻し、彼は手のひらを恋羽に向ける。

 すぐさま、弾丸のように放たれる空気砲。ギュオォッ!と襲い掛かる空気の弾を、恋羽は腕を胸の前で交差することで何とか受け止める。だが、衝撃を逃がしきれず、そのまま後ろへと飛ばされてしまった。恋羽は地面を転がる。笑美が彼女に作ってくれたワンピースが、泥まみれになってしまった。

 

「うっ……」

「お前、お前お前お前、お前ごときが! 俺に指図をしたのか! 今! ああ⁉」

 

 虎徹はぷつり、と何かの糸が切れたように怒りをまき散らす。すかさず距離を詰め、倒れた恋羽の腹を何度も蹴る。

 

 ガン!

 ガン!

 ガン!

 

「くう……うっ……!」

 

 恋羽は体を丸め、何とか衝撃に耐える。それが気にくわないのか、虎徹の攻めは更に苛烈になっていく。その様子を、ほれ言わんこっちゃない、という顔で蜘蛛は傍観していた。傍観、していたが。

 

(オヤ……?)

 

 彼の耳がぴくり、と何かの音を拾う。


(これは、ヒーローのお出ましみたいネ)

 

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