第二幕 ハツニンム②

 山下との会話を終えて階下に降りると、唯が他の面々を質問攻めにしていた。


「ぱぱ、いつおむかえくるの?」

「さ、さあ、いつかしらね~? おばさんたちも聞いていないのよ~、唯ちゃん、お遊びして、パパを待ちましょうか~」

「ぱぱ、なんでおむかえこないの?」

「ど、どうしてでしょうね……? きっとお仕事ですわ! そうですわ!」

「うそだもん! ぱぱ、おしごといつもよるにおわるもん」

「う、う~ん。そうだなあ~」


 恋羽、笑美、一誠は唯の質問にたじたじだ。ここで迎えが当分来ない、なんていったらどうなることやら。話をそらすために、健生がそ~っと、慎重に輪に入っていく。


「こ、こんにちは~、唯ちゃん」

「! ぷいっ」


 何とか笑顔を作って挨拶をしてみるが、そっぽを向かれた。ぷいっと効果音を口で言ってしまう様子は非常に愛らしく、怖くはないのだが、これはこれでやりにくい。


「えっと、さっきは怖がらせてごめんね……? お兄ちゃん、唯ちゃんと仲良くなりたいな~……」


 幼い子どもに向けた言葉を苦し紛れに紡ぐが、彼女は頬を膨らませるばかりだ。可愛い。いや、そうではなくて。


「あ、あ~、お兄ちゃんと何かして遊ぶ? それともテレビ見ようか?」

「や!」


 遊びを提案してみるが、秒速で拒否される。唯は「や!」と言うのと同時に、恐ろしい瞬発力で玄関に走っていった。


「⁉ はやっ……!」

「お任せください」


 すかさず柳が彼女を追いかけ、抱っこして確保する。抱っこされた状態で、唯はじたばたと暴れた。


「やー! おうちかえるの! まほうつかいさん、まほうでおうちにかえる!」

「う~ん、さすがに魔法使いさんもその魔法は使えませんねえ」

「やー‼」


 唯が不機嫌状態になった、ここからが本当に大変だった。おもちゃもお絵描きもいや、おやつもジュースもいや、お話もいや、と取り付く島もない。度々冨楽家から脱走しようとしては柳に確保されるの繰り返しだ。何とか健生がコミュニケーションを試みてみるが、その度に「おばけ、や!」と言われてしまう。唯の中では、健生を完全にフランケンシュタインの怪物だと認識してしまったらしい。


(ど、どうしよう……)


 好きな女児アニメが始まるということでいったん落ち着いた唯を見ながら、健生は頭を抱えるのだった。


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