第二幕 ハツニンム

第二幕 ハツニンム①

 時間は少し経過して。

 小さな護衛対象、唯は頬をぷくーっと膨らませてソファに座り込んでいた。笑美、一誠、恋羽は可愛らしいお客様が来た、と大喜びだ。早速おやつやジュースを準備して、彼女を何とか笑顔にしようと奮闘している。柳は護衛任務もあるため、無表情で彼らに同行だ。

 健生はと言うと、初対面で思い切り泣かれてしまったこともあり、一時山下とともに自室に引っ込んでいた。悲しい。

 しょんぼりする健生に、山下はいつもの調子で声をかける。


「いやはや、大変でしたねえ健生君! フフフフフ!」

「本当に大変でした……あの、山下さん」

「はい、なんでしょう!」

「山下さんの仮面も、唯ちゃんから見れば十分怖いと思うんですけど……何で山下さんのことは怖がらなかったんですか?」


 そんな健生の疑問に、山下はフフフ、と笑いながら答える。


「それはですねえ……健生君、わたくしの手元をしっかり見ていてくださいね」


 山下は手元にふぬぬ、と力を込める。


「スリー、ツー、ワン、はい!」


 何もなかった手から、可愛らしいピンクの花が咲いた。


「おわっ! すごい、手品ですか⁉」

 

 健生の感嘆の声に満足気な様子で、山下は頷く。


「わたくしはこういった手品のタネを、護衛対象の方々と会う前に仕込んでいるんです! 唯さんも魔法使いだ! と喜んでくださいました、フフフフフ!」

「つまり、相手が誰でも安心してもらえるような事前準備が必要……ということですか?」

「その通りです! 健生君は賢いですねえ、フフフフフ!」


 つまり、受け身ではいけないということか。

 ふむ……と学びを得る健生に、山下から任務についての追加情報を語る。


「唯さんのお父様は、とある大企業の役員です。そちらの方でいろいろと……それはもういろいろとあったらしく! 実はここだけの話、彼女のお父様、企業ぐるみのとんでもない不正の証拠を掴んでしまったようですよ、フフフフフ!」

 

 こういうゴシップネタは嫌いではないのだろう、ウキウキした声色で山下は笑う。


「その不正の証拠が、今回の任務にどう関係するんですか?」


 健生が聞き返すと、山下は背広の内ポケットから一枚の紙を取り出した。そこにはこんなことが書かれてある。


『オマエが知った秘密を破棄しろ。さもなくば娘の命はない』


 山下は続ける。


「こんな脅迫文が大量に、それも能力者の手で届けられたそうですよ。お父様は後方支援組に更なる証拠集めの協力を、前衛組には唯さんの護衛を依頼したというわけです。いくら警察機関といっても、特殊な組織ですから。こんな依頼もよくあるんですよね、フフフフフ!」

「よくあるって……」

「ほら、健生君だってつい最近まで護衛されていたでしょう? あんな感じです」

 

 彼がこういった事態に慣れているのだろう。もはや見慣れたこと、という感じでせせら笑った。

 だが、健生にはにわかに信じられない。あんな小さな子どもを、関係ない大人の事情の駆け引きにするなんて。彼女はただ巻き込まれただけではないか。

 彼女の不遇な境遇に唖然としている健生を置き去りにし、山下はこう言った。


「今回は護衛対象が幼いですし、なるべく普段通りの生活ができた方がいいだろうとなりまして。超常警察の事情をよく理解されている冨楽家の皆様のお力をお借りしよう、というわけです! よろしくお願いしますね、健生君! フフフフフ!」


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