第一幕 ニュウタイ⑤

『健生君、入隊、おめでとう!』


 パーン!とクラッカーが鳴らされる。おかげで健生は紙吹雪まみれだ。


「ありがとうございます、皆さん」


 第一班の班員や恋羽、護に囲まれながら、健生は照れ笑いをする。

 兵頭に案内された部屋のドアを開けると、健生は思いがけないサプライズに見舞われた。こんなの初めてで、顔がにやけてしまう。


「いや~健生殿、拙者驚きましたぞ! この世に超能力が本当にあって、おまけに互いに選ばれし者だったとは! まさに、現実は小説よりも奇なり、ですな!」


 護は自分が能力者と知って以来、こんな調子だ。自分が能力者だったことはもちろん、健生と二人でその世界に足を踏み入れたことが嬉しいのだろう。


「お兄様、恋羽は冨楽家の娘として応援しておりますわ! 必ず力になりましてよ!」


 恋羽は、健生に本当に恋心を抱いていたわけではないらしい。冨楽家の娘になってからは、健生の事を兄として、純粋に慕うようになっていた。


「健生様」


 最後に、柳が健生の前に進み出てくる。相変わらずの無表情、相変わらずの美貌。健生の心臓がどきっと跳ねる。彼女は何を言うのだろう。周囲が固唾を飲んで見守る中、彼女は健生に右手を差し出した。


「これからも、よろしくお願いいたします」

「……っ! うん、よろしく!」


 かつて、自分が柳にした挨拶だ。自分の想いは伝わっていた。思わず涙が出そうになりながら、健生は柳と握手をする。そんな二人を温かく見守っていた兵頭が手をぱん、と叩いた。


「さて、挨拶はここまでにして、健生君の歓迎会を始めようか。ここからはほどほどに、無礼講だよ」

「よっしゃァ!」

「さすが班長や!」

「食べ物も飲み物も用意してあるからね」

「健生君、後輩にはおやつをあげようね~」

「ここ、コーヒーもありますよ……!」

「師匠のところにも来てくださいよ、健生君!」

「恋羽ちゃんもこっちへいらっしゃいな!」

「楽しい歓迎会になりそうですね、フフフフフ!」

「……ボクは端っこにいる……」


 それぞれに喜びの声を挙げながら、歓迎会はスタートした。

 吉良と晶洞が相変わらず漫才のようなやり取りを繰り広げ、それを見た恋羽が笑ったり。隅っこで座っている若松と護がいつの間にかゲームの話題で盛り上がっていたり。市原と桂木は仲の良い兄弟のようにやり取りし、彩川は古賀と照れながらもスイーツを楽しんでいる。なるほど、彩川が古賀のことが好きというのは本当らしい。兵頭は新田や山下といった年上組と和やかに会話をしている。健生は部屋の中で静かにたたずんでいる柳を見つけ、声をかけに行った。


「柳さん!」

「健生様、お疲れ様です」


 飲み物も食べ物も持っていない彼女に、健生はジュースを手渡す。彼女はしばし固まった後、ぽつりとこう言う。


「ありがとうございます」

「ううん。あのさ、柳さん……」


 健生はあることを柳に問いかける。


「今までは、俺の護衛が任務だったから、俺のこと守ってくれてたでしょう?」

「そう……ですね」

「これからはさ、俺は柳さんの後輩になるから。先輩の力になれるように俺、頑張るよ」


 だから、改めてよろしくね。


 健生が笑顔でそう言うと、柳は固まった。

 もう守られるだけの存在じゃない。そうなるためにも、頑張ろう。

 息まく健生だったが、柳は心の隅に、どこか寂しいものを感じるのだった。

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