第一幕 ニュウタイ②
コンコンコン
「? はい、どうぞ」
突然のノック音に驚きながらも、健生は来客を招き入れた。
そうして入ってきたのは、只者ではない雰囲気を放つ三人組だった。
「……っ」
思わずぎゅっとシーツを握りしめる。
身構えていると、中央のビスクドールのような少女が口を開いた。この人……人と言っていいのだろうか、まさしく異様な出で立ちだった。車椅子に座ったその人物は、クラシックロリータの衣装に身を包み、髪の毛も化粧も、人形のように整えられている。しかし、漂わせる空気は子どものものではなく、何百年も生きた仙人を彷彿とさせた。このアンバランスさが相まって、一種の恐ろしさを呼び起こさせる。
「……冨楽健生だな」
幼い声色。そして重みのある口調。健生が最初に感じた通り、ちぐはぐさが目立つ。
健生が答えられないでいると、相手の少女は構わず話を続ける。
「私は超常警察特殊機動隊隊長の長法寺珠寧(ちょうほうじたまね)という者だ。後ろに控えているのは執事の日下部(くさかべ)、そして第一班班長の兵頭優一郎(ひょうどうゆういちろう)」
長法寺に紹介され、控えている二人が会釈をする。
車椅子を押している、銀髪の壮年の執事が日下部、にこやかで細身の中年男性が兵頭だろう。兵頭は服装をしっかり着込んでいるのに、にこやかな笑顔がどこか頼りない印象を持たせる。だが、印象と雰囲気は違うものだ。逆鱗に触れてはいけない。それが一瞬で分かる。眼鏡の奥の瞳は優しいが、健生の本能がそれを知らせていた。
「今回は災難だったな、冨楽健生」
車椅子に乗った長法寺は、健生に労いの言葉をかける。
「あ、ありがとうございます」
健生は何とか彼女の声掛けに応える。
「入院最終日にすまないな。今日はこれを渡そうと思って来たのだ」
そう言って、長法寺は日下部に目配せをする。それを受けて、日下部は健生に黒いファイルを持ってきた。
「こちらを」
「これは?」
「超常警察特殊機動隊への入隊希望書でございます」
「入隊希望書?」
聞き返すと、長法寺が説明してくれる。
「能力者は貴重な人材でな。おまけに、ほとんど自力で暴発を収めることもできた。もしよければ、このまま第一班に入隊してもらえないか。入隊テストも、今回はなしにしよう」
「それって、俺の進路が決まるってこと……ですよね?」
「そうなるな」
それは……どうなんだろう。
確かに能力には目覚めたし、資格も十分にあるんだろう。でも、それだけで自分の進路を決めてしまってもいいんだろうか。何より、それだけで決めてしまっては、あそこまで体を張っている隊員の人達に失礼だ。
「何、急ぐ必要はない。入隊を希望しない場合でも、こちらで能力との付き合い方を教えながら護衛を続けていくつもりだ。気になることは、ここにいる兵頭に聞くと良い。私がいると話しにくいこともあるだろう、ここで失礼する」
ゆっくり考えると良い。
そう言い残して、長法寺と日下部は去っていった。
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