第一幕 ニュウタイ

第一幕 ニュウタイ①

 とある日の超常警察特殊機動隊。

 冨楽健生は、大きな部屋の中央に、一人パイプ椅子に座っていた。普段着崩している制服はかっちりと着込み、髪型もきれいに整えている。


「では、これから超常警察特殊機動隊、入隊式を始めます」


 健生の目の前には、やせ細った優し気な、だが眼鏡の奥の眼光は鋭い中年の男性が、穏やかな表情で立っていた。

 ここまでの経緯を説明するために、学校での能力暴走事件の後始末について語ろう。


 まず、転法輪の部隊が学校を襲った件について。表向きには大規模火災が起きたということにして、国が修理費を負担してくれることになった。超常警察と転法輪の間でも話し合いが行われ、修理費を一部負担する形で示談が成立したらしい。恋羽が部隊をけしかけた主犯でないことは明らか(恐らく一がやったのだろう)だったが、恋羽の父親による勘当は解消されなかった。


 だが、恋羽の場合はそれで良かったのだろう。恋羽はめでたく、冨楽家の娘として迎えられ、冨楽恋羽となった。一に撃たれた怪我も、超常警察管轄の医療機関で治療を受けたことで、一週間程度で退院することができた。ちなみに恋羽は撃たれた直後意識があったらしく、健生のことを「お兄様」、柳のことを「お姉様」と呼んで慕うようになっていた。柳は彼女の反応に戸惑っているようだが、悪い気はしていないのだろう。そんな恋羽は、内部の事情を知りすぎているという理由で、第一班の護衛対象に加わることになった。

 

 そして、護に市原の演幕が効かなかったことについて。事件後彩川が検査をしたところ、護には超能力を無効化してしまう能力が身についていたようだ。護の能力については、能力の素質があった健生と、当初から能力者だった一と長らく行動していたことが関係しているのではないか、とのことだった。こういうわけで護も第一班の護衛対象に入り、すべての事情を話すことになった。最初は驚いていた護だが、「まさにラノベの世界ですぞ!」と大喜びしていた。


 一については、超常警察で特殊指名手配をすることになった。昔、健生が実験体となっていた研究も凍結されていない可能性が出てきて、再度調査をすることになったらしい。健生の中には一に対しては許せないような、どこか憎んでいないような、複雑な思いがある。きっと、もう一度会って話をすれば分かりあえる。そう思ってしまうのは馬鹿なことだろうか。それでも健生は、一と過ごした全ての時間が偽りだと信じたくなかったのだ。


 最後に、健生の処遇について。健生は事件後、超常警察管轄の病院に検査入院をすることになった。そんな彼の元に来客が現れたのは、入院最終日だった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る