第六幕 ブラックボックス

第六幕 ブラックボックス①

「一……? 何してんの……早く避難しなきゃ……そうだ、この子、誰かに撃たれて……でも拳銃……あれ……? 」

「呆れた。こんな状況になってもまだ現実逃避ができるなんて、馬鹿にも程があるんじゃない? 健生」

「一……そんなわけないよな、おかしいよな? 一……」

「おかしいって、何が?」

「だって……、一は中学生のときから一緒で……」

「じゃあ、こう考えてみたら? 中学生のときから騙されてたって」

「…………」

「もっと言うなら、お前は生まれたときから騙されてたよ、健生。せっかくの機会だから、ここらで昔話でもしてやろうか」

 

 昔々、あるところに研究施設がありました。その研究施設では、能力者を意図的に作り出す実験を繰り返していたのです。

 ある日、超常警察特殊機動隊という機関がやってきて、研究施設をぶち壊しやがりました。研究者の親玉は奴らから逃れるとき、目の前にある二つの実験体を見ました。

 

 一つは生きたまま体を解剖され続け、死にかけの子ども。

 もう一つは、首輪をつけ、獣のように扱い続けた子ども。


 どちらを連れていくかなど、研究者にとっては分かりきった問題でした。結果、犬塚一と呼ばれることになる獣の少年は、研究者に見捨てられることなく、連れて行ってもらえることになりました。

 見捨てられた少年はぼろぼろで、今にも死にそうでした。そのときに死んでしまえば良かったのにね。でも、実験体を見捨てられなかった超常警察は、少年の体を繋ぎ合わせ、なんと蘇生させやがりました。

 蘇生した少年は目覚めましたが、どうやらショックで記憶を失っているようです。そこで超常警察は、少年を交通事故に遭って記憶喪失になったことにしました。そして監視役として、元警察関係者だった夫婦に養子入りさせました。何で監視が必要だったかって?

 そりゃ、万が一能力に目覚めたら不味いからだよ。

 少年は健生と安直な名前をつけられ、夫婦の子どもとして育てられました。このことは当然、研究者の耳に入りました。ヤツは生き残ったか、これは惜しいことをした!そこで研究者は、学校にもう一つの実験体を友人として潜入させ、監視してみることにしました。しかし、少年は能力に目覚める気配を全く見せないまま、暢気に日常を送り続けました。とうとう痺れを切らした研究者は、実験として少年に刺激を与えることにしました。例えば……誘拐事件とか!

 少年の誘拐は容易でした。だって、隣に内通者がいたんだからね。そうして少年に刺激を与え続けた研究者は、最後に種明かしとして、できるだけ少年がショックを受ける形で正体を明かすよう、内通者……犬塚一に命令したのでした!

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