第五幕 ボーイ・ミーツ・ガール②

 そして昼休憩。さすがに柳が目の前にいるのもどうかと思って交渉したところ、桂木、市原、古賀とともに屋上に隠れておくという形に落ち着いた。怪しい動きがあればすぐに飛び出してきてくれるそうだ。とりあえずシュールな絵面になることを阻止して屋上に向かうと、そこにはすでに転法輪の姿があった。

 転法輪は健生を見つけると、ぱあっと笑顔を見せる。

 

「冨楽健生先輩! 来てくださったんですのね!」

「まあ、呼ばれたからね………転法輪さん、一つ聞きたいんだけど、なんで初対面の俺に告白してきたの?」

 

 これが一番の疑問点だ。健生は転法輪のことを全く知らない。そして、転法輪も健生とは初対面だと認めている。告白する理由も、惚れられる余地もないはずなのだ。

 すると転法輪はさらっと言ってのけた。

 

「それはもちろん、能力者である殿方とのご縁を作っておきたいからですわ」

「⁉」

 

 その瞬間、控えていた柳、桂木、市原、古賀が健生を庇うように現れる。四対一。そんな状況になっても、転法輪は全く焦らない。

 

「やっぱりいらっしゃったのね、超常警察特殊機動隊の方々。乙女と殿方の逢瀬を盗み聞きするなんて、感心しませんわね」

「むしろこの状況で、健生様を一人にする方がいかがなものかと」

 

 柳が言い返すが、転法輪はせせら笑う。

 

「それに、この件について決めるのは冨楽健生先輩でなくって? 誰が誰とお付き合いするなんて、そこまで警察は介入するんですの?」

「それ言われると厳しいなあ、お嬢ちゃん。けど、転法輪といえば全員が生まれながらの能力者の家系やろ? わざわざ健生君に手ぇ出す理由が見つからへんなあ」

 

 市原の言葉にほんの一瞬、ほんの一瞬むっとした様子を見せるが、彼女は気を取り直して健生に向き直る。

 

「冨楽健生先輩にとっても悪い話ではありませんわ! もしお付き合いしてくださるならば、わたくしが悪い輩からお守りいたしますわよ! わたくし、動かせる駒はそこそこおりますの」


 駒。


 この言葉に、健生はもやもやと、いらいらとしたものを感じた。自分のために動いてくれる、自分のために体を張ってくれる人達のことを駒などと。

 

「いかがいたします? 少なくとも、超常警察特殊機動隊よりも多い人数は……」

「断るよ」

「……なんですって?」

「断る」

 

 怒気をはらんだ声で聴き返されても、はっきりと言い返す。

 

「俺には、俺のために体を張ってくれている人達がいるから。その人達は裏切らない」

 

 健生の答えに、転法輪は理解できない、という表情を見せた。

 

「分かりませんわ……! 転法輪は能力者の家系、権力も超常警察特殊機動隊に負けないほどありますのに」

「そういう話じゃないんだよ、転法輪さん」

 

 健生は自分を囲うように守ってくれている人達を見渡す。

 

「俺は、この人達を裏切らない」

「そう……そうですの」

 

 転法輪は冷静な振りをするが、その声は動揺していることが明らかだ。ふらり、と一瞬ふらつくが、何とか踏ん張って気丈なように振舞う。

 

「まあ、構いませんわ! 時間はたっぷりあることですし! またお会いしましょう、そのときには良いお返事が聞けることを期待しておりますわ」

 

 彼女はそう言うと、悠々と屋上から去っていく。がちゃん、と屋上の扉が閉まると、健生はへなへなと床に座り込んだ。

 

「ど、どうなるかと思った……」

「俺らもそう思うてた」

 

 市原の言葉を皮切りに、柳以外も床に座り込む。

 

「最近の高校生って怖いね~……あんな感じで告白してくる?」

「いや、それはあいつだけじゃねェか……」

「今度は転法輪が出てきましたか」

「その転法輪って何なの……?」

 

 健生が柳に聞くと、丁寧に解説をしてくれる。

 

「転法輪は先ほど市原先輩が言っていたように、全員が生まれながらの能力者である家系で、裏では傭兵や暗殺稼業を行っています。幼いころから訓練を行うので、手練れ揃いの集団です」

「せやから健生君がはっきり断ったとき、怒って能力使いだすんやないかってひやひやしたわ……ま、でも……」

 

 市原はぐりぐり、と健生の頭をなでる。

 

「かわええこと言いよってからに~このこの~!」

「いででで! え、何⁉」

「相変わらずだなァ、お前は」

「本当に面白い子だね~健生君! おやつあげようね~」

 

 何やら大人組は嬉しそうに、健生を取り囲む。この陣形は警護ではないような。それでもどこか心地よいぬくもりに、健生は顔をほころばせる。柳は、そんな健生を遠巻きに眺めていた。


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