第五幕 ボーイ・ミーツ・ガール③
そして次の日。とうとう健生は熱を出して学校を休んだ。どう考えても、肉体と精神のキャパオーバーである。健生が学校を休んだことで、柳も一緒に家で過ごすことになってしまったのが申し訳ない。そして、ただでさえ遅れている勉強に更に遅れが生じてしまうことが彼にとっては痛手だった。
(最近学校休みすぎだろ、俺……)
布団をかぶって、あちゃ~となる。これはまた、一の授業内容講座を受けることになりそうだ。一は「自分の勉強にもなるから」と快く勉強を見てくれるが、ずっとこのままなのもどこか恥ずかしい。
(教科書、見るだけ見とくかな……)
そんなことを思い、健生が布団から這い出したときだ。
ピンポーン
家のチャイムが鳴る。これだけなら母の笑美(えみ)が対応してくれるので、何も思わなかっただろう。だが、重要なのはこの数分後だった。
バァン!
健生の部屋のドアが勢いよく開かれる。思わずびくっとなりながら音のした方向を見やると、そこにはなんと転法輪恋羽がいた。
「ごきげんよう冨楽健生先輩! 本日は学校をお休みと聞いてはせ参じましたわ!」
「いや何で⁉ というか、柳さんは⁉」
健生の護衛に当たっていた(階下にて母親と昼食準備をしていた)柳が見当たらない。するとすぐに、階段からドタバタという音が聞こえてくる。
「健生様、ご無事ですか⁉」
「あら、遅かったですわね護衛さん」
「何故ここにいるのです、転法輪」
柳が急いで健生と転法輪の間に割って入る。その直後、母親がひょっこりと顔をのぞかせて暢気にこう言った。
「この子、健生が休んだからってわざわざお見舞いに来てくれたんですって! しかも、お昼ごはん頑張って作ってくれるらしいわよ! 幸ちゃんも一緒にお料理しない?」
『…………』
健生と柳は固まってしまう。その間、転法輪は「どうだ」と言わんばかりのふふん、とした顔で仁王立ちしている。何というか、毒気を抜かれてしまう。
「別に昨日振られたからといって、諦めるわたくしではありませんわ! 殿方の心を掴むにはまず胃袋から! わたくしが自ら手料理を振舞って差し上げてよ!」
「心を掴むって……! 恋羽ちゃん、そこのところ詳しく!」
「もちろんですわ!」
そう言って、二人はきゃっきゃうふふしながら居間へと降りていく。柳も我に返ったのか、健生に声をかける。
「待機している桂木先輩に来ていただきます。私は階下に降りて、転法輪を監視します」
では、と柳も駆け出していく。せっかくの休みだったのに、まったく心が休まらない。
「どうなってるんだ、これ……」
ちなみに、この後すぐに駆け付けた桂木も「どうなってんだァ、これ……」と困惑するのであった。
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