第四幕 トレーニング②
休憩中も、晶洞は体を結晶化させたままだった。余程自分の能力を気に入っているらしい。
「晶洞さんは超能力が出たときって、怖くなかったんですか……?」
健生は晶洞に問いかける。その問いを受けて、彼女は「う~ん……」と天井を見て考える。
「そうですね……。驚きはしましたが……何というか、ようやく殻を破れた、そんな感覚がしたんですよね」
「殻、ですか……」
自分も、晶洞のように美しい能力なら、そう思うことができたのだろうか。
あのとき、柳は自分の膨張した腕を見て「人間だ」と言ってくれた。
救われた。それは事実だ。かといって、あのときに戻りたいのかと問われれば。
それは否だ。
もうあんな、化け物みたいな姿にはなりたくない。
ただでさえ、こんな体なのに。
戻りたくない!
「健生君」
もうあんな怖い思いはごめんだ。
もうあんな自分はごめんだ!
「健生君!」
晶洞の声に、健生ははっとする。慌てて自分の体を見ると、頭を抱えていた腕が膨張し始めていた。
「う、うわあああ⁉」
能力を使うつもりなんてなかったのに。ぐちゃぐちゃとした腕がそこにある。
「な、何で⁉ 俺、俺何も……!」
「大丈夫です、落ち着いてください」
晶洞は冷静に、健生に声をかけて落ち着かせる。
「今、君がいるところは安全な場所です。そして、ここには能力をけなす人間もいません。ですから、大丈夫です。深呼吸して」
吸って、吐いて。と晶洞は深呼吸を促してくれる。それに合わせてゆっくりと呼吸する。恐怖を静めていく。すると、徐々に腕の膨張は収まり、元の形に戻っていった。
「はあ、はあ……!」
嫌な汗が全身から吹き出る。体の表面は冷え切っているのに、中身はおかしいくらい沸騰していた。
地面に手をつき、肩で息をする。
そんな健生を見て、晶洞はこう言う。
「健生君、今日はここまでにしておきましょう」
「でも俺、まだ何もしてないです……」
「十分やったじゃないですか。今日はもうゆっくり休んで、落ち着いたら帰りましょう」
どうやら、今日はもうトレーニングをしないらしい。……しないで済むらしい。
いやいや、自分は何を言っているんだ。訓練をしないといけないというのに。
健生の中で、矛盾した思いがぐるぐると渦巻く。
晶洞は健生のそんな心中を見透かしてか、声をかけてくる。
「焦ることはありませんよ。時間はいくらでもあるんです。じっくりいきましょう」
「はい……」
心中は晴れない。
嫌なことを思い出さずに済んだという安堵と、ろくに訓練すらできない自分の無力さが押し寄せてきてぐちゃぐちゃになりそうだった。
沈んだ表情を隠しきれない健生を、晶洞は静かに見つめていた。
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