第三幕 シンセイカツ⑧
市原、古賀は襲撃犯の引き渡しのため、その場で待機。健生と柳、桂木、山下は先に本部へと向かうこととなった。
本部へと向かう最中、柳が健生に問いかける。
「健生様」
「ど、どうしたの、柳さん」
彼女から話しかけてくるとは珍しい。ドキッと跳ねる鼓動を押さえながら、健生は彼女に応える。
「何故、あのとき私を庇ったのですか?」
「あのとき?」
「先ほどの襲撃です。私に覆いかぶさりましたね」
不愉快にさせてしまったのだろうか。彼女の無表情からは読み取れないが、しまった、と何となく思う。
「嫌だったならごめん……」
異性に急に触られるなど、普通は嫌だろう。失念していた、と健生が思っていると、柳は更に問いかける。
「嫌だった、のではなく、何故護衛の私を守ったのですか?」
柳は首を傾げながら健生に問う。なるほど、そういうことだったか。
「いや、柳さんが怪我するの嫌だなあって思って」
これに関しては、思っていることを素直に答えても問題ないだろう。そう思って答えると、彼女はまた固まった。何か、変なことを言ったのだろうか。ぎくしゃくしかけた空気を救ってくれたのは、後部座席に座る桂木だった。
「おう、健生。お前ェなかなかいい奴じゃねェか。気に入ったぜ」
「おわっ‼」
桂木が、ぐりぐりと健生の頭を撫でる。
「お前のことはしっかりオレらが護衛してやっからよォ。安心しな」
そう言って彼はニヤッと笑う。意外と話しやすい人なのかもしれない。
「健生君は素敵な紳士になれますねえ、フフフフフ!」
山下もどこかご機嫌な様子でハンドルを握っている。
彼らが和やかに談笑している間も、柳はフリーズしたままだった。
柳が所属する超常警察特殊機動隊の本部は、どこにでもあるような大きなビルだった。もっと何というか、近未来的な建物を予想していた。柳によると、表舞台に立つことができない部隊であるため、施設も街中に溶け込むようになっているという。確かに、超能力が実在するなんて明らかになったら世間の混乱も必至だが……。それでは、体を張っている柳たちの扱いとしてどうなのだ、と話すと、柳はまたも固まった。彼女は、会話の最中に固まる癖でもあるのだろうか。
本部の駐車場に到着すると、山下と桂木は車の点検をしに向かった。ここからは柳と二人行動である。そう、たった二人きりなのである。
(心臓が持たない!)
気づけば、一日のほとんどを柳と過ごしている。いつか自分の心臓は破裂してしまうのではないか。健生は本気でそんなことを思ったりする。
柳は健生のそんな気持ちなどいざ知らず。彼に施設の中を案内し始めた。
「こちらの階が、健生様を護衛する第一班の階です」
エレベーターを降りると、彼女は健生にこう説明する。
「意外と普通のオフィスなんだね」
「見かけは、ですね。壁や扉、それぞれの設備が通常よりも頑丈に作られています。健生様には、これから本部の簡単なご紹介をいたします。まずは、能力制御のトレーニングを担当する班員との面会を」
「そういえばそれもあるんだった……柳さんが担当じゃないの?」
「健生様は体を変質させる能力をお持ちの様子ですので、私よりも適任の能力者にトレーニングを依頼しました」
こちらです、と柳はある一室の扉の前に立つ。
「この部屋はトレーニングルームとなっております。この中に担当の班員がいますので」
彼女はそう言って、ドアの隣のボタンを押す。金属製のドアが横にスライドする。
扉の先にいたのは…………全裸の女性だった。
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