第三幕 シンセイカツ⑥

 柳に連れられてきた場所は、通学路から少し外れた裏道だった。そこには全員が乗れそうなバンが止まっており、三人は既に車に乗り込んでいた。

 

「お、来たな~健生君。お疲れさん」

「お疲れ様です、市原さん、古賀さん、桂木さん……えっと」

 

 健生は運転手の男性に目を向ける。先日、自分と柳を自宅送迎してくれた人だが、名前を知らない。どうしよう……と思っていると、相手側が自己紹介してくれた。


「わたくし、山下心路(やましたしんじ)と申します! いやはや、先日は大変でしたねえ! フフフフフ!」


 ステッキやシルクハットを持っていても何ら不思議ではない、マジシャンのような出で立ちの山下の顔は、白い仮面で覆われており素顔が全く見えない。

 

「あ、ちなみにわたくしの能力、人相を自由に変えられるんですねえ! ちょっと気を抜くと顔が崩れてしまうことがあるので、仮面をしてるんですよ! フフフフフ!」


 山下はなんでもないことのように、とんでもないことを言ってせせら笑った。

 

「よ、よろしくお願いします、山下さん」

 

 さすがに顔面が崩れる、なんてことを言われると驚いてしまう。よろしく、と言った声が上ずってしまった。

 

 山下の自己紹介が終わると、健生と柳は車に乗り込む。運転手が山下、助手席に市原、中央の席に健生を挟んで柳と古賀、一番後ろの席が桂木だ。


「ほな、行きましょうか山下さん」

「了解です、フフフフフ!」

「安全運転でお願いしま~す」

「もうあんなドリフトはごめんだァ」

「おやおや、皆さん手厳しいですねえ、フフフフフ!」


 どうやら、山下は運転が荒いらしい。乗員たちが口々に厳重注意をする。そしてその厳重注意は肝心の本人には届いていないだろう。

 車が出発する。

 

「ねえねえ、健生君健生君。君、高校生なんだよね、学校頑張ってえらいねえ~、えらい子にはおやつをあげようね~。柳ちゃんにもあげる~」

 

 古賀は健生と柳に手を出すように伝えると、萌え袖の中から飴やらチョコやらをばらばらと出した。どうやら、コートの中身はお菓子でいっぱいらしい。


「え、あ、ありがとうございます……」

「ありがとうございます、古賀先輩」

「うんうん、お礼が言える子はえらいね~」

「まァた古賀がやってンよ……というか、お前が教育実習生なんて無理ねェか?」

「桂木先輩の用務員もあれでしょ、ガラ悪すぎでしょ」

「はァ~?」

「いや、俺からしたら二人ともあれやで? 何であれで潜入できたんや」

「スーツは学校の定番ですしね、フフフフフ! ちなみに市原さん、勉強教えられるんですか?」

「無理で~す」

「一番無理ある設定じゃないスか……」

「生徒に質問されてたら助けてあげますね~イッチ―先輩!」

「マジか~古賀ちゃん、助かるわ~」


 車内の雰囲気は意外にも穏やかなものだった。とはいえ、外から内部が見えないように加工された窓、普通車よりも頑丈に作られた車内を見ると、依然自分の置かれた状況は好ましくないことが分かる。こんな車で送迎を行うのだ、特に何もなければ良いのだが……。

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