第三幕 シンセイカツ⑤

 時間が少し経過して放課後のこと。

 健生がいつも通り一、護と一緒に下校しようと廊下に出たときのことだ。


「健生様、少々お待ちください」

「? どうしたの、柳さん」


 珍しく柳から声をかけてきた。忠犬のように柳を威嚇する一を押さえながら、健生が聞き返す。

 

「本日の下校ですが、護衛と本部のご紹介がありますので、下校前に隊員と合流をお願いします」

「ああ、そういえば……」


 そんなこともあったっけ。

 病院で聞いたことだったため、すっかり忘れていた。健生としては問題ないのだが、断固反対するのが一だ。

 

「……健生をどっかへ連れていく気?」

「ご両親の了承も得ていますので」

「はっ! どうだか。そもそも従妹って本当なの? 僕は健生からそんな話聞いたことない」

「ま、まあまあ一殿。いちおう、健生殿のご家族も同意されてるみたいですし……」「そういって護、前みたいに健生が学校突然休むことになってもいいわけ?」

「そ、それは……」

「一、それは言い過ぎ……」

 

 いよいよ健生が言い返し、険悪な空気になりかけたときだ。

 

「あれ~? 廊下を塞いどるいけん子らがおるなあ。他の子らが帰れんやろ、空けてあげ」

 

 気づけば、後ろに市原が立っていた。足音どころか、気配を全く感じさせずに。


「それにな、こんなところでする話やないやろ?」

「……軽率でした」

「……どういうこと?」

 

 一が疑念に満ちた目で市原を見るが、彼は飄々とした態度でそれを受け流す。

 

「なんやよう分からんけど、未成年は何するんも保護者の同意が大前提や。その保護者がええゆうてはるんやろ? それ以上は各家庭の問題やで。あまり言わんとき」

「…………分かりました」

 

 教員が現れたということもあり、一は引き下がってくれた。護が明るい声で「さらばですぞ健生殿!」と言いながら一を連れて行ってくれたのが申し訳ない。

 

「柳さんもごめん。一、普段はあんな感じじゃないんだけど」

「いえ、よくあることですので」

 

 よくあること?

 

 少々引っ掛かるが、健生はお礼を言う方が先だろうと市原に向き直る。

 

「市原……先生も、ありがとうございました」

 

 その言葉を聞くと、市原は満点!とでも言いたげな表情で健生を見た。

 

「よろしゅうね、健生君。ほな、柳ちゃんは先に行っといてな。すぐ合流するわ」

 

 「ほなな~」と手を振りながら市原は行ってしまった。そしてすぐ合流する、という言葉通り、健生は市原、古賀、桂木に学校外で会うことになる。

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