第三幕 シンセイカツ④
「え~、それでは臨時集会をはじめます」
どこか眠気を誘う声で、校長が開始の合図を告げる。生徒たちは事前に新しい職員が来ると聞いていたこともあり、ざわざわしていた。
「え~、今回は、教育実習生、新しい先生、それと用務員の先生が、この学校に来ることになりました」
お願いします、と校長先生が舞台の下手の方向を見ると、これまたキャラの濃い三人組が壇上に現れた。
一人はぶかぶかのベンチコートを着た、黒髪ショートボブの小柄な女性だ。上着がオーバーサイズ過ぎて、両手がキョンシーのような萌え袖になっている。目つきは意外にもきりっとしているが、彼女のほわほわした雰囲気が、その眼光を見事に中和していた。
二人目は、スーツ姿の青年だった。少し長めの髪を後ろで一つくくりにしてなびかせている。教育実習生と比較すると特徴にかけるが、遠くから見ても細目の狐顔であることが窺えた。
三人目は、体つきががっしりとした青年。大柄な体格に、短い金髪というどこかヤンキーっぽい出で立ちだ。好戦的な雰囲気と愛想のない目つきは、正直話しかけづらい。だが、健康的な小麦色の肌は人間味を感じさせた。
「はい。え~、では端から順番に自己紹介をお願いします」
どっちの端だよ。という生徒たちの突っ込みをはねのけるように、教育実習生が口を開く。
「はじめまして~、教育実習生の古賀葵(こがあおい)です! 専門は体育だよ~、これからしばらくの間よろしくね~」
古賀が萌え袖をひらひらさせながら生徒に手を振る。なかなか愛らしい仕草だ。
続いて、スーツ姿の青年が挨拶をする。
「どうも~。教員の市原輝明(いちはらてるあき)言います~。イッチ―先生って呼んでなあ。方言が混ざっとるのは小さいころ引っ越しが多かったからやから、エセ関西弁とか言わんといてよ~」
生徒たちから「ははっ」と笑いがこぼれる。掴みはばっちりだったようだ。
最後に自己紹介したのは、金髪の青年だった。
「……桂木晴人(かつらぎはると)。用務員だ。よろしくなァ」
なんともガラの悪い自己紹介だ。直前に市原が自己紹介をしていなければ、場の空気は凍り切っていたことだろう。
「え~、これからこの三人の先生たちと、校内で会うこともあると思います。みなさん、しっかり挨拶するように」
要は、校内をうろついていても怪しい者ではないから安心しろ、ということだ。
もっと言うなれば、校内をこの三人がうろつくことになるということだ。
(一気に人が増えた……覚えられるのか……)
臨時集会は新しい職員の紹介だけで終了し、その後は今まで通りの時間割を過ごした。一日休んだ遅れは健生にとってはかなり大きく(健生の成績は下の中である)、必死に授業を聞いた後、一の解説を受けて過ごすという繰り返しとなってしまった。
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