第三幕 シンセイカツ③

 教室に入ると、クラスメイト達の視線は一斉に健生たち一行に注がれた。正確に言えば、柳と、柳が付き従っている健生に対しての視線だ。しかし、全身のつぎはぎのおかげで他者からの奇異な視線に慣れている健生と、恐らく任務のことしか考えていない柳にとっては、どうということない出来事だった。

 

「そういえば柳さん、席は……?」

「もちろん健生様の隣です。窓際に私が座りますので、ご安心ください」

「え……? 俺の隣、既に他の人が……」

 

 視線を自分の隣の席に動かしてみると、そこは既に空いている。健生の隣に座っていた女子の席は、クラスの一番後ろに移動していたようだった。女子は「なんか席後ろになっていいんだって! ラッキー!」なんて暢気なことを友人と語り合っている。警察機関はクラスの席替えなんてしょうもないことにまで干渉できるのか。


 はは……と苦笑いしていると、一がイライラしたように促す。

 

「ますます怪しいな、この女。とりあえず、席に座ろう。僕らもホームルームまでは健生の近くにいるから。廊下側の席にいる僕らじゃ、さすがに授業中まで見れない。……そうだ、授業前にノートも渡しておかないと」

「そうだった! ごめん一、説明も追加で頼むよ」

「もちろんだよ」

 

 そうして三人は教室の中に入り、各々のこと(柳は健生の隣にずっと座っていた)をする。

そんな風に過ごしていると、ホームルームの時間となり、担任である三筋金治(みすじきんじ)が元気よくドアを開けて入室してくる。彼はまさに絵に描いたような三十代の熱血教師で、趣味は筋トレだという。時折鍛え上げた筋肉を披露するようなポーズをとることで有名だ。そんな特徴もあって、生徒からはきんティーと呼ばれ親しまれている。


「おはよう生徒諸君‼ ホームルームを始めるぞお、席につけー!」

「きんティーおは~」

「うむ! おはよう‼」

 

 生徒の緩い挨拶もポーズとともに寛容に受け入れる、生徒思いの先生だ。生徒が席についたことを確認すると、彼は大きな声ではきはきとしゃべる。

 

「さて、みんなも既に知っていると思うが、うちのクラスに転校生が来たぞ! 柳幸さんだ! 席にもちゃんとついているな、優秀優秀‼ 新しい仲間とともに、これからも文武両道、頑張っていこう‼」

 『は~い』『う~っす』『へ~い』

 

 どこかまばらな返事がクラス中から返ってくるが、それでもきんにく先生はうんうん、と満足そうにうなずく。寛容すぎやしないか。このように話が速いところも、きんにく先生の人気の秘密なのだ。


「本当なら柳さんに直接自己紹介をお願いしたいところだが……臨時で学校集会が入ったので、それはまたの機会だ‼ 生徒諸君、体育館に移動するぞ、整列だ‼」

『えー‼』

 

 どうやら不満の声を上げるとき、人は一致団結するらしい。

 

「前やったばっかじゃん!」

「めんどいよ~」

 

 生徒からブーイングが続出するが、きんティーは困ったように頭をぽりぽりとかく。

 

「そうは言ってもなあ……なんでも、新しい先生と職員が来たとかで、全校生徒の前で紹介するんだそうだ」

 

「マジかよ!」

「転校生に続いて教師とか、逆に珍しくね?」

 

 ……まさか。

 

 心当たりのある健生はちらっと柳の方を見る。柳はこくり、と小さく頷いた。

 新しい教員と職員は、柳と同じ超常警察特殊機動隊の人間であると。

 

 護の言っていたことも意外と当たるんだな……。

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