第三幕 シンセイカツ②

 ひとまず、友人たちと合流する待ち合わせ場所に向かう。昨日の欠席については二人に連絡しておいたが、きっと自分のことを心配しているだろう。普段よりも少し足早に待ち合わせ場所に向かうと、友人二人は既に到着していた。いつも賑やかに会話をしている二人だったが、今日は無言のようだ。健生が声をかけるより先に、二人は彼の存在に気づく。

 

「健生!」

「健生殿! ご無事でしたか⁉」

「一(はじめ)! 護(まもる)!」

 

 一人はいかにも落ち着いた優等生、もう一人はいかにもオタクといった出で立ちだ。

 

 優等生に見えるのは犬塚一(いぬづかはじめ)。髪の毛は清潔に整えられ、学ランは着崩されることなく、上から下までしっかりとボタンがかけられている。顔には柔和な笑顔をたたえている彼だが、意外と毒舌だということを中学時代からの同級生である健生は知っていた。かといって性格が悪いわけではなく。実質中学校から学校デビューを果たした健生に真っ先に声をかけてくれ、同級生たちの陰口も物ともせず、高校まで仲良く付き合ってくれる、良いやつなのだ。


 もう一人のオタクの少年は秋葉護(あきばまもる)。一とは正反対に無造作に伸ばされた髪にヘアバンドをつけ、鞄は好きなアニメやゲームのグッズで飾り立てられている。分厚いビン底のような眼鏡をかけ目元は伺い知れないが、それでも表情からは生き生きとしたエネルギーを感じさせた。彼は高校からの付き合いで、ひょんなことから健生、一と関わるようになった。


「……で? 後ろの女子は一体誰かな、健生? 見るからに怪しいんだけど」

 

 一は健生の後ろに控えている柳を睨みつけながら指さす。


「ああ、紹介するよ。柳幸さん。あー、えっと……」

 

 そういえば、柳を二人にどう説明するか考えていなかった。俺の警護をしてくれる人?いやいや、まさか本当のことを言うわけにはいかないだろう。

 健生が内心焦っていると、柳がすっと答える。

 

「初めまして、柳幸と申します。健生様の従妹です。これからしばらく、健生様と一緒に生活することになりました」

「従妹? 聞いたことないんだけど」


 柳は一の言葉に眉一つ動かさない。その事実がより一層苛立つのだろう、一の眉間の皺がどんどん濃くなる。ピリピリとした空気に健生が固まっていると、大げさに慌てた様子で護が大声を上げた。

 

「あー! 話し込んでいたらもうこんな時間ですぞ! まずは学校に向かいましょうぞ。健生殿も一殿も、イラつくこともあると思いますが……今は話し合っても結論は出ませんし。それにほら、一殿、健生殿が休んだ分のノート、取ってあるんですから。授業の復習がてら、学校で健生殿に渡しましょう!ね!」

 

 場違いなほど明るい護の声に、一は「はあ……」とため息をついた後、柳を指さして宣言する。

 

「僕、お前のこと信用してないから。学校にいる間は、見張らせてもらう」

「構いません」


 ひとまず話はついたようだった。健生はほっと息をつき、護にそっと耳打ちする。


(ありがとう護、助かったよ)

(いえいえ。しかし、妙なことになりましたな……突然現れた黒髪クール美少女……定石ならば、この後まだまだヒロインが登場するところですぞ)


 まさか。自分のヒロインは柳だけである。


「ほら、学校行くんでしょ。置いてくよ」


 気づけば、一は既に歩き始めている。普段より少しだけ足早な彼を、健生と護は慌てて追うのだった。

 四人で和やかに登校するのは、なかなか長い道のりになりそうだ。


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