第二幕 タダイマ③

「おはようございます」


 次の日の朝、柳が健生の家にやってきた。

 ……大きなキャリーケースを持って。


「えっと……柳さん? その荷物は……?」

「私の私物です」

「そうじゃなくて……ええ?」


 迎えに来るとは聞いていたが、これは一体どういうことだ。


「本日は学校を欠席されるとお母様からお伺いしております。ご自宅で過ごされるということでよろしいですね?」

「あ、そうそう休む……じゃなくて」

「……何か?」

「何でキャリーケース?」


 自宅で警護に当たるとしても、大きすぎる荷物だろう。

 そう思っていると、柳の口から衝撃的な一言が飛び出す。


「本日より、健生様のご自宅に居候、という形で住まわせていただくことになりました。私の転校手続きも既に済ませておりますので、ご安心を」

「聞いてないんですけどお⁉」


 健生が叫ぶと、奥から健生の母が現れる。


 「あらあ、幸ちゃんいらっしゃい! これから健生のことよろしくね。まるで娘ができたみたいで嬉しいわあ」

 「不都合をおかけしますが、よろしくお願い致します」

 「え、母さん知ってたの……?」


 嘘だろ、という表情で母親の顔を見ると、彼女はるんるん、と音符が出てきそうな笑顔で答えた。


「昨日連絡がきたのよ~。もう、私もお父さんも嬉しくって! 今日の晩御飯は奮発しちゃうんだから!」

「いや……ええ……」

 

 君はいいの?という表情で柳を見やるが、彼女は健生にペコリと頭を下げる。どうやら不服など存在しないようだ。


「そ、そうなんだ……」


 正直、健生は気が気でない。こんな美少女と一つ屋根の下。惚れた相手と一つ屋根の下。いや、嬉しいけども。嬉しいんだけども!


「これから……一体どうなるんだ……」


 そんな少女漫画の主人公の台詞のような台詞を言いながら、健生は日常に別れを告げたのだった。

 

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