第一幕 ユウカイ③


「う、うわあああ‼」


 腕の肉が、脚の肉が皮膚を突き破って膨張している。血管も筋繊維も丸見えだ。


「なんだよ……なんだよこれええええ⁉」

 

 健生が叫ぶと、更に体の肉が膨張し、ベルトを突き破る。そうして健生は徐々に、おぞましい肉の塊へと姿を変えていった。

 

「ひっ、ひい……っ‼」

 

 もはや誰が敵かも分からない。健生は肉塊と化した体を必死に動かしながら、わけも分からずその場から逃げ出した。

 周辺では、緊急事態を告げるブザーが鳴り響いている。その警報を聞いて、健生を止めようと銃を持った黒服が何人も立ちふさがった。


「なんだ、あの化け物は⁉」

「ひるむな、撃て!」

 

 ダダダダン‼

 

 健生は真正面から銃弾を食らう。が、銃弾は肉塊に飲み込まれただけで、健生は痛みも全く感じていない。それでも、発砲音は健生をパニックに陥らせるには十分すぎる刺激だった。


「こっち来んなあああ‼」

 

 もはや大きくなりすぎて、ずるずると引きずっている腕を振るう。長い腕は黒服たちをバアン!と壁に叩きつけて一掃した。


「おい、銃効かねえぞ!」

「手りゅう弾投げろ、コイツを外に出すな‼」


 黒服たちもパニックになりながら健生を止めにかかる。そのうちの一人がカラン、と健生の足元に手りゅう弾を投げ込んだ。投げ込まれた手りゅう弾は健生の足元で爆発する。

 

 ドオン‼


「やったか⁉」

 

 パラパラ……と瓦礫が落ちる音がする。と、同時に、ずりゅ……と肉が地を這う音がした。

 健生は無傷だった。

 正確には、怪我をした端からどんどん傷が再生していた。

 

「こんなの……こんなのどうやって止めろっていうんだよ‼」

 

 黒服たちが自棄になって大声で叫ぶ。

 

「知らないよ、そんなの……」

 

 俺に教えてくれよ。

 

 暴れ、攻撃を受けて疲れ切った健生は、体をよろけさせる。大きくなった体は、よろけると同時に窓ガラスを突き破った。


「まずい、落ちるぞ!」


 健生はそのまま、地面へと落下していく。


 ドシィン……‼

 

 大きな音が外の森に響き渡る。ずいぶん高いところから落下したようだが、健生の体は潰れた直後に回復した。疲れが出たのだろう、肉塊となっていた体は小さくなり、両腕の膨張を残すのみとなっていた。

 

「…………」

 

 健生の精神はもはや限界だった。うつろな目で、暗闇を見つめる。


「逃げたぞ、追え‼」


 後ろから黒服たちの慌てる声が聞こえる。

 健生は気だるい体を必死に動かし、暗い森の中へと逃避行を続けた。

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