第一幕 ユウカイ②

 

 そして覚醒。

 健生はやけにひんやりとした、冷たい金属が全身に触れている感覚に目を覚ました。意識を取り戻すと、瞼越しでも分かる眩しいライトに目を細める。徐々に戻ってくる体の感覚に、健生は言葉を失った。体を縛られ、猿ぐつわをされている。そして極めつけにはこれだ。

 全裸である。

 正しくは全裸で手術台のような金属の台に、頑丈なベルトで縛り付けられている。ご丁寧に口元までベルトが噛まされ、自害できないようになっている。普段は服に隠れている箇所のつぎはぎも露わになり、まるでフランケンシュタインの実験のようだった。そう、まさにこれから実験が始まりそうな状況。健生は、全裸で実験台に縛られ、白衣を着た数名の人間に取り囲まれていた。


(なんだ、これ……)


 現実離れした異様な視界に、健生の思考は完全に止まってしまった。残るのは、未知に対する恐怖だけだ。


「A0002、覚醒しました」


 白衣の中の一人が、どこかにあるだろうマイクに向かって言葉を発する。全員マスクやゴーグルをつけており、誰が何をしているかも定かでない。誰が誰だか分からない。


「んー! んんんー!」

「反応あり。こちらを認識している模様」

 

 半ばパニックになって声を上げるが、その声は無常にも無情な白衣たちに届かない。

 健生が縛られながらも両手足を動かして暴れようとすると、金属の部品がガチャガチャと音を立てる。

 

「実験体より体を動かしての抵抗が見られる。即、第一実験を開始する」


 一人の白衣が進み出て、無機質な声でこう言った。

 

「メス」

 

 手渡されたのは鋭い刃物。手術で使う道具。体を切ることに長けた道具。もちろん、健生の体には麻酔なんてかかっていない。


「腹部の切開を開始する」


 メスが自分に向けられた。目の端で必死にその狙いを追うと、腹部に大きく残った自分のつぎはぎをなぞろうとしているのが見えた。頭が真っ白になったと同時に、健生の中で確信が生まれる。


 俺は、この恐怖を知っている!


(やめて……)


 涙が溢れる。


(助けて……)


「切開開始」

「んんんーーーー‼ (やめろおおおお‼)」


 恐怖が溢れかえる。

 全身ががたがたと震える。

 体の感覚が定かでなくなる。


「おい、能力覚醒したぞ!」

「早すぎないか⁉」


 ふと、腕が動かせることに気づいた。夢中で腕を振り回す。


「うわあああ‼」

「総員たい……ぐはッ⁉」


 今度は足も自由に動く。幼子のように足をばたつかせた。


「痛ぇ⁉」

「クソっ⁉」


 そうやってしばらく暴れていると、辺りが静かになる。

 あれ、何もされてない。そういえば、口元のベルトもいつの間にか外れている。

 助かった?

 そう思って自分の体を改めて見る。そこにはおぞましい光景が広がっていた。

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