第36話「勇者は、もしかして……。」

―――スパエナの街角にて


「あの~、すいません。『マジ、暑いんですけどぉ。エアコンないとかあり得なくな~い!?おにぃ、さっさと自販機で冷たいお茶買ってきてっ!!』みたいな口調の17歳くらいの女のを見ませんでしたか??」


「見た目はどんな感じさぁ。」


「ミディアムくらいの長さの栗色の髪で、ちょっとつり目気味な、めちゃくちゃ可愛い女のなんですけど、もしかしたら、見た目が変わっちゃってるかもしれないです。それと服装は、麦わら帽子に、ベージュのワンピースを着ている可能性があります。」


「見た目が変わっちゃってるかもって……、あんた、それじゃあ、流石にわからないよぉ。服装だって違うかもしれないんだろ?」


「はい……。」


「大事な人を探してるんだろうけどさぁ……、お役に立てなくてごめんね。」


「いえ、お時間ありがとうございました。」


 天下一武道会で奮闘するアビーの応援の合間を縫って、一人、スパエナで、なっちゃん捜索活動を進める。かなり無理のある聞き込みだとは、自分でも分かってはいる。ただ現状、なっちゃんを探す手がかりは、あの口調しかないのだ。


(流石に、こんなふんわりとした捜索活動、他の3人に手伝わせる訳にはいかないよなぁ……。)


「ハァぁ……。」


 ため息の先には酒場がある。


(……これも神の思し召しかな。)




―――スパエナのとある酒場


「生下さ~いっ!!」


「はい、どーぞお兄さん!」


「ありがとう!」


ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴクッ……


 カウンター席に腰を下ろし、エールを喉に流し込む。


「プハァ~~ッ、うまいっ!!」


 酒場の中は、天下一武道会の話題で持ちきりだ。


「今回は、女のが二人も勝ち上がってるらしいなぁ。」


「あぁ、ちびっこい猫耳のとモデルみたいに綺麗な武闘家のだろ?」


「アビーちゃんとリーサちゃんだったっけか?」


「昨日、闘技場で観たけどよぉ、アビーちゃん、ちっちゃくて可愛らしいのに、物凄いパワーだったぜ。」


(アビーもすっかり人気者だなぁ。)


「リーサちゃんも身のこなしが常人離れしてたよ。」


(確か、二回戦で、ギャノス様をワンパンKOしただっけ。)


「俺は、今回の優勝、アビーちゃんに賭けたぜ!」


「俺は、リーサちゃんにだ!」


(そうそう、ベスト16が出揃うと、公営賭博が始まるんだよな。)


「……そういや、二人の話で思い出したぜ。今回、ゴリン王国に再臨された勇者様も女性らしいなぁ。」


(勇者が女性!?もしかして……。)


「あぁ、凛とした佇まいのべっぴんさんだって聞くぜ。」


(……凛とした佇まいねぇ。)


「品位溢れる言葉で周囲を鼓舞し、引っ張ってくタイプらしい。すんごいカリスマ性なんだとよ。」


(品位溢れる言葉か……。余計に離れたな。まぁ、どう考えても、なっちゃんではなさそうだ。)


 噂話に耳を傾け、気分よくエールを飲んでいると……、


「いっけね、もうこんな時間!!」


 アビーの試合開始時間が過ぎてしまっているのに気づく。酒場を飛び出し、急いで闘技場へと向かう。


(もう試合終っちゃってるよなぁ……。)




―――闘技場 選手控室


「ヒール!」


ファ~~~~ッ


「アビー、大丈夫!?」


「ありがと、エレナ。」


 アビーが、控室のソファで横たわってる。


(もしかして……、やられちゃった?)


「遅くなって、ごめんっ!!アビー、試合はどうだった!?」


「コタローさまぁ、あのドワーフの人、すっごく強かったの。」


「陛下っ、やりましたよ!アビーが、優勝候補筆頭を相手に勝利しました!!」


「おぉ~っ!!」


 アビーの勝ち上がりに安堵していると、続けて、ラド君が試合の詳細について教えてくれる。


 アビーの準決勝の相手は、地元スパエナの雄、サトノワカ。天職はスモウレスラーで、小結の称号を持つ前回大会の優勝者だ。もちろん、賭けのオッズは断トツの一番人気1.8倍である。その強敵相手に、オッズ4.6倍のアビーが金星をあげたのだ。

 試合展開はというと、アビーは初め、胴体にパンチや蹴りを見舞うが、思ったほどのダメージは与えられず、逆に、カウンターとして、鋭く強烈な張り手を受けてしまう。多少、動きが鈍くなるも、スピードの優位性を生かし、今度は足に攻撃を集中させる。

 アビーのヒット&アウェイ戦法に、なかなかペースを掴めずにいたサトノワカであったが、本戦終了間際に、流石の集中力でアビーを捕まえることに成功する。そのまま土俵際で捨て身の投げを打たれ、万事休すかと思われたアビーだったが、その驚異の身体能力で最後に身体を入れ替え、逆転で勝ち名乗りを受ける。……そして自分は、そんな壮絶な一戦を見逃すという大失態を犯した訳だ。


「試合見れなくて、ごめんな、アビー。ほんとよく頑張ったんだな。」


 アビーの頭を両手でクシャクシャとナデる。


「えへへへっ♪」


 今回ばかりは、まぁ仕方がないといった表情で、エレナは見て見ぬふりをする。

 アビーの体調が回復したところで選手控室を出ると、闘技場のホールは、大番狂わせに悲嘆にくれる人々で溢れていた。


「……マジかよ、あの嬢ちゃん。」


「まさか、サトノワカが負けるかよ……。」


「おいら、全財産、サトノワカに賭けちまったよぉ。明日からどう生活してけばいいんだ……。」


 一方、今回の賭けで、アビーに大金をベットしているラド君も、さぞ肝を冷やしたことであろう。


「まさか、アビーをここまで苦しめる選手がいるとは、思ってもみませんでしたよ……。」


「でもさぁ、世界中から猛者たちが集まる大会なんでしょ?そのディフェンディング・チャンピオンに勝つなんて、大したもんじゃない。」


「そうですね。明日はいよいよ決勝ですか。」




―――武闘大会最終日


「皆さま、お待たせいたしましたぁ。アイドルグループ、“ティータイム”のライブパフォーマンスも終わり、まもなく、第358回ガルディガルド武闘大会、決勝戦が行われます。え~、解説のセキンさん、決勝カードは、史上初、女性同士の一戦となりましたね~。」


「そうですねぇ、いや~、楽しみです。両選手とも、本当に見事な勝ち上がり方でしたから、大会が進むごとに、ファンも増えてきていますよね。」


『アビーちゃん、猫耳最高っ!!』


『リーサちゃん、俺と結婚してくれぃ!!』


「ファンの数は、五分五分といったところでしょうか。本日の入場者数は超満員、6万3000人との情報が入って来ています。」


「立ち見のお客さんも結構いますねー。」


「はい。それでは、簡単に選手の紹介をいたしましょう。東コーナー、“クールビューティー”、リーサ選手。身長169cm、体重53kg。天職がファイターで、拳闘士の称号持ちでもあります。」


「非常にしなやかで、引き締まった体つきですね。」


「そして、西コーナー、“爆裂猫耳娘”、アビー選手。身長148cm、体重非公表。天職がモンクで、僧侶の称号持ちです。」


「同門のチャンセバ選手は、一回戦で反則負けを犯しましたからねぇ、ここは是非とも優勝して、一門の汚名を返上したいとこでしょう。」


『それでは、両者向かい合って!!』


「こうして並ぶと、両者、結構、身長差があるんですね。」


「21cm差ですか。でも、アビー選手は、自分の2倍はありそうな男性選手にも勝ってきてますからねぇ。全く気にはしていないでしょう。」


「いよいよ、決勝戦が始まります。」


『試合開始っ!!』


ゴ~~ン!!


 ……いよいよ、決戦の火蓋が切って落とされた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


なっちゃんの行方は依然不明ですが、

代わりに酒場で、勇者は女性という情報を得ました。

ただ、アビーの準決勝を見逃してしまい、

相変わらず、コタロー君、やらかしちゃってます。

次話、天下一武道会の優勝者が決定!?


「続きが気になるかも!」と思った方は、

フォローしていただけると嬉しいです!

ぜひぜひ、★評価の方もお願いいたします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死神ヒーラー* 阿屈洞摩 @tohma_akutsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ