達磨の冒険譚 〜死んだと思ったら転生してた件〜

@kampfHROK

幼年期 不思議な世界編

ブロローグ 俺の職業はラッパー

俺はラッパーだ、そこそこ売れているラッパーとでもいうべきか。

 親は少し裕福な家庭と言うべきか、親父は外資系、母親は専業主婦で、幼少期にはパリの高級住宅街で生活しており、日本に帰った後も金に困ったことはなかったな。

 俺のガキの頃は真面目なやつで家に帰ったら、毎日の様に習い事と家庭教師の授業をやっていたが、それに反発することはなかったという。

 なんというか、それが当たり前だと思ってたからね。

 俺は友人関係もなんだかんだ築くことか出来ており、小中では学校の休み時間サッカーしたり、隣の席の友人と何気ない会話をしたりと普通の生徒。

 強いて言うのなら成績が少し良かったくらいだろうか。

 親は成績の事になると物凄く五月蠅かったので、一生懸命勉強していたのを覚えている。

 まあ、別にその事もすげえうぜえコイツラとも思ってなかった訳なのだが。

 俺は他の子と比べて反抗期が遅かったみたいだ。

 

 俺は高校は全国でも有数の進学校に通っていた。

 言うて俺は中高一貫校に通っていたのでエスカレーター式で、かの有名な大学にもほぼほぼ合格できる高校だ。

 だけど、俺はこの頃から親の言うことを聞かなくなっていた。

 言っただろう、俺は反抗期が遅かっただけだ。

 今までの不満が爆発したのか俺は習い事もサボる様になるし、授業も真面目に受けなくなる。

 夜はよく、公園で友達とタムロしたり、女の家に泊まってワンナイトなんてこともあったな。

 勿論、ほぼ早朝に帰ってくる上、好き勝手する俺に対して両親は良くなんて思ってないわけで。

 両親に毎朝怒鳴られる、ぶん殴られることもあったくらいだ。

 学校は行くだけ、勿論昼夜逆転している俺は授業態度も悪く、いつも夢の中だ。

 まあ、そんな訳で成績も急降下、留年のピンチもあったくらいだ。

 だけど、なんとか俺はそれを回避し、適当な大学に入った。

 どうやら、ギリギリを耐える運と実力はあるみたいだ、こんなゴミみたいな生活で大学に行く力があったんだ。

 別に大学は家からそんな距離があった訳ではないが俺は一人暮らしをすることになる。


 大学の同級生のドレッドの野郎、今でも仲良しで時々飲みに行く仲なのだが、そいつは俺と一緒にとあるイベントに行かないか?と誘ってきた。

 そいつが言うにはバトルのイベントがあるらしく、そのイベントを見に行く事にする。

 —俺は変わってしまっていた。

 まあ、バトル自体に興味があった訳ではないのだが、とあるラッパーに引き込まれた。

 立ち振る舞い、リズムキープ、決して長い訳ではないが美しすぎる韻。

 全てに目を奪われてしまう……。

 俺はその日から同じステージに立ちたいと思ってしまったのである。

 それからは仕事をしながら、バトルに出場したり、クラブで遊んだり、音源を作ったり、それをライブで披露したりと今考えれば充実した日々だった。

 地元のクラブで意気投合する仲間とクルーを作る。

 大学をサボって仲間たちとラップをする。

 俺は気付けばラップに浸かりまくってしまったのである。

 

 初めて20年、知名度が上がり、ラップだけで飯が食えるようになっていた。

 まあ色々あった。

 地元で組んでいたクルーが解散する。

 気づいたらバトルより音源を勢力的に作るようになってバトルの仕方忘れる。

 ステージの上に立っていた憧れのラッパーと曲を制作する。

 日本最大のビーフに巻き込まれる。

 後輩のラッパーが育ってどんどん自分を追い越している。

 親元を離れ貧乏だった生活に余裕が生まれ始める。

 ほ○弁でのり弁を食べなくなる。

 結婚して家庭ができる。

 あっという間に子供が小学校に入学する。

 可愛い娘に反抗期が来る。

 とにかく色々なのだが、一番記憶に焼きついているのは。

 —クルーメンバーの死である。

 理由は高速道路を法定速度を大幅に超える危険運転。

 先頭の車両13台ほどを巻き込む大事故で、勿論突っ込んだ本人は即死。

 司法解剖の結果、違法薬物が血液などから検出されており、車内には合成麻薬やLSDといったものが置かれていたとのことだ。

解散してから、あまり仲良くしていた訳ではない、寧ろ同じ現場にいたら挨拶程度で済ませるレベルだった。

 だけど、もう会えないのか。

 寂しさだけが残ってしまう。

 

 俺は彼がなぜそうなってしまったのか調べてみる事にした。

 あいつの過去を知っているが、薬関係で問題を起こすやつではないし、寧ろそういう奴がいるならボコボコに殴っているような奴だ。

 どのようにしてあいつに薬を買わせたのか。

 俺はラップそっちのけで気になってしまった。

 友人の死、それは祖父母の死よりも衝撃的なものだった。

 今の幸せを捨てても解明したい。

 墓を掘り返すような事だ、わかってる。

 けど……。

 無念を晴らしてやりたいんだよ。

 

 俺は気付けば友達に話を聞いていたりした。

 生前の様子、どこから薬を仕入れていたのか、直前の精神状態。

 ただ、あいつは亡くなる寸前、疎遠だったそうでなかなか情報が集まらない。

 その中で俺が唯一話せたのが、彼の愛人であり、友達から紹介してもらった。

 

 当たり前だが冒頭にぶん殴られる。

 「なんで、あんたはほったらかしにして、今になって私の前に来たのよ!!」

 もうとにかく殴られまくる、あまり痛くはないが精神的にくるものがあった。

 俺は殴り返さず事情を話して、お互いが落ち着いた時に彼女は話してくれた。

 一つは、徹底的に周りからいじめられていたこと、彼は新しくクルーを組んで活動していたのだが、クルーのメンバーが売人であり、売人が他クルーメンバーに薬物を回していたことに激怒し、彼が売人をぶん殴ったことから、他メンバーから敬遠されてしまう。

 売人は彼以外のクルーメンバーの弱みを握り、彼の共演者に対して悪い噂を流すようにしたのだ。

 確かに、彼が他のクルーメンバーをいじめているといった情報を小耳に挟んだことはあったが、まさか逆だったとは。

 それにより彼を徹底的に追い詰めて、時には売人が彼を殴ったり直接暴言を吐いたりといったこともしていたそうだ。

 そしてこれからが胸糞だ、売人が暴力団員であり、暴力団員に対し売人は弱った彼に薬を買わせるように指示させたのだと言う。

 彼は精神的にかなり削られており、愛人の話によるとイベントも呼ばれなくなり、クルーからは追い出され、友人関係はほぼ消滅したそうで、拠り所が、彼女以外なくなっていたという。

 勿論彼女がいない時は深い孤独を味わう、それを紛らわしいたいのか、彼は暴力団から薬物を購入するようになったという。

 うつ状態になり、貯金で高い薬物を使って鬱をかき消したような気になる。

 切り崩していた貯金もいつの間にか限界に近づいて……。

 そんな生活が続いたある日、彼は突然、

 「買い物に行ってくる。」

 とだけ残し、もう戻ることはなかったと言う。

 何処かへ旅に行きたかったのだろうか。

 

 俺は後悔した。

 なぜあの時、俺は救ってやれなかったんだ。

 俺がいれば、と思った時には遅かった。

 涙が止まらなかった。

 

 彼女は

 「今日は話を聞きに来てくれてありがとう、彼は生前、久しぶりにクルーで集まりたいって言ってましたよ。

 後、彼の分もいっぱい曲出してくださいね。

 彼もきっとそれを望んでいると思います」

 と言ってくれた。

 今日は話を聞いた限りだが、彼女は彼が死んでも尚、彼を愛しているのだ。

 おい、どうして逝ってしまったんだ。

 こんなに素敵な人がいたのに、もったいないなあ。

 あいつは昔っから鈍感なんだ、でもいい奴だ。

 彼女もお前のそういう所に惹かれたかもしれないだろうが。

 

 俺は普通に今まで通りにラップをした。

 審査員もしたし、他の若手と曲を作りまくった。

 それが彼や彼の愛人が望むことで、俺が売人に対して復讐することは考えなかった。

 なのだが。



 ーー渋谷某所

 若手のフィメールラッパーに詰め寄る謎の男。

 そして暴力団組員と思われるガタイのいい男。

 どうやら、断っている彼女に無理やり薬をやらせようとしているらしい。

 「私学生です!本当にやめてください」

 「あん?ステージ立ってんだから学生どうこう関係ねえよ。

 俺がオーガナイザーに紹介してお前ライブさせてやってんのわかってんだろうが」

 俺は止めに入った。

 止めに入った時、俺は不思議と恐怖感を忘れる。

 「おい!裏で薬勧めてんじゃねえぞ!!」

 「うるせえなお前、俺は彼女のキャリアの為に言ってんだよ。

 彼女に先輩に対する礼儀作法を教えてやってるんだ」

 ちっ!何が礼儀作法だふざけたこと言ってんじゃねえ!

 「礼儀作法だ?ふざけたこと抜かすなよ。

 俺は酒ですら強制することはないぞ?

 しかもメディアにバレたら彼女のキャリアが潰れる可能性だってある。

 お前みたいな考えの奴を許す訳ないだろ!!」

 その時、謎な男は俺に対してこう言い放つ。

 「ああ、お前周辺を嗅ぎ回ってたやつか、ちょっと来い」

 俺は彼女を残し、強引に連れてかれた。

 彼女は暴力団にがっちり腕を掴まれている。

 でもなんだろう不思議と怖くは無かった。

 あったのは彼女に対する心配で、リンチされたりでもしたら大変だ。

 彼女の体格は丈夫ではない……。

 

 「お前ばれないとでも思った?分かってるんだよ。」

 「なんのこと……」

 俺は殴られた。

 「分かってるんだよ!!お前が俺周辺を嗅ぎ回って、情報を集めてたことはな!!」

 「なんの事だよ!俺が知るわけ……」

 下腹部を思いっきり一発。

 「お前が俺たちの情報を手に入れるために、裏で薬物売買の証拠写真を集めてたことはな!」

 いやなんのことだ!俺は一切知らない!俺は何回か薬物取引の現場を見ていただけだ。

 しかもお前の所属してる暴力団だって限らないじゃないか!!

 「俺はただ、何回かそう言う現場に居合わせただけだよ!

 証拠がない以上警察には突き出していないし、第一俺は写真すら撮ってないんだぞ!」

 「嘘つけ!!こっちは何回かお前みたいなやつと目があって明らか盗撮してそうな手つきだったから今こうしてるだろうが!」

 一体何のことなんだ!!

 「まあいいよ、お前ここで死ね」

 何せ今回お前は俺たちの取引を邪魔したんだ、消えてもらう」

 「や、やめろ、俺には家族が……」

 俺に煙が立たない訳では無い、そういう場面に出くわしたらバレない為に内容を聞いていたことはある。

 だけど、俺は本当に盗撮もしていない。

 

 余計な事に首を突っ込んだのはわかってる。

 恐らく、嗅ぎ回ってるのがバレたのは俺がクラブやバーで聞こえる声で話していたのが原因だと思う。

 俺もこいつを舐めていたみたいだ。

 捜査能力が物凄く高い。

 変なところで頭が悪いみたいだが。

 全く厄介な奴を敵に回したもんだ。

 でもまだ死ねないし、死にたくねえよな。

 あいつのためにも……。 

 俺は死ぬ直前、こいつが話で聞いた売人であることを察した。

 うわさ通りのクソ野郎で見た目や特徴は少し一致しないがまあ何となく分かる。

 しかしお前もこんなゲス野郎と音楽やろうとしてたんだな。

 全く見る目がねえよ。


 男は俺に拳銃を突き出す。

 ボコボコにやられて体が動かない。

 「やめろ……」

 そう思っても体が動かない。

 俺は次の瞬間、ものすごい痛みと快感と共に、意識を失った。

 もう、娘にも、嫁にも、仲間にも誰にも会えないのか。

 まあ、あの世があるならあいつと酒でも酌み交わそう。

 仲間にしてきた事に対する怒り、この世から消えてしまう悲しみすら消える。

 はずだった……。


 俺は赤子となっていた。

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