【短編】悪役令嬢、処刑まであと10分〜王子の思う通りに処刑されるなんて絶対に嫌です!〜

ほしくず かなた

第1話

私の処刑時間はあと10分と言うところまで迫っていた。


暗い牢屋の外からいくつもの罵声が聞こえてくる。


なんと言っているのかまでは聞こえないがおそらくそれは全て私に対するものだろう。


たくさんの足音が近づいてきているのが聞こえる。


現れたのは騎士団に囲まれたこの国の第一王子であり、私の婚約者であるアーサー王子だった。


「やっとこの時が来た。お前の顔を今日限りで見ないで良くなると思うとせいせいするよ」


アーサーは私を見下し、そう言ったかと思うと踵を返した。


「騎士団、早くそのメスを連れていくぞ」


「はっ!」


私は騎士団に無理やり立たされ、まるで物であるかのように運ばれた。


な、なんでこんなことになったのだろう。


私にはそれが全く理解できなかった。


「なんで、なんでこんなことを、するんですか?私は何もしてないのに」


「何もしてないだと、ふざけたことを言うな」


私はアーサーに平手打ちをくらい壁に頭をぶつけた。


「い、痛い」


「学校での色々な人に対する度重なる嫌がらせ。たくさんの男との不純異性交遊。忘れたなどとは言わせないぞ!」


わ、私はそんなことはしていない。


そんな声が出せないくらい私は衰弱していた。


しかし、本当に私は何もしていないのだ。


だって、ここ数年自分の部屋からもほとんど出させてもらっていない私がどうやって、他人を痛い目に合わせればいいのだろうか。


それに私は学校にさえもいくことが許されていないのだ。


私はまた騎士団に運ばれながら、昔のことを思い出していた。




小さい頃から、私とアーサーは婚約が決まっていた。


私はアーサーと早く仲良くなろうと王城によく遊びに行っていた。


アーサーと私、第二王子のナイトとナイトの婚約者で色々な遊びをしたのを覚えている。


しかし、私の人生が狂ったのは私が9歳になった、6年前の時だった。


私はその4人で遊んでる途中で気分が悪くなり、倒れた。


その頃からだろうか、体の色々な部分が動かなくなっていったのだ。


そして、倒れてから約1年後、ついに親から「お前はこの家の恥だ。もう部屋から出るな」と幽閉されてしまったのだ。


それから、すぐナイトが不慮の事故で亡くなったらしいのだが、その葬式にさえも出させてもらうことが出なかった。


1つ救いがあったとするならば、部屋に誰も入れないように見張る新しい護衛がとても優しかったことぐらいだ。


彼と話しているとなんだか、懐かしくなるような気分になるのだ。


「ふふっ」


今から、処刑されるというのに昔のことを思い出し、少し笑ってしまった。


そして、その声はもちろんアーサーに聞こえていたようだ。


「こんな状況で笑うとはついに気がおかしくなったのか?」


「いいえ、昔のことを、思い出して」


私は声を絞り出し、アーサーに話しかける。


「覚えてる? 一緒に、ピクニックにいって、大きな魚を釣ろうとしたら、失敗して四人みんなで川に落ちちゃったこと」


「ああ、もちろん覚えているさ。あの時、元気に川の中ではしゃいでたお前はとても可愛いくて好きだった」


「私も足がつくのに溺れそうになって慌てていたあなたが好きだったわ。だから、最後に教えてくれない? あなたが私を殺そうとしているのは病気になったから?」


「アハハハハハハハ」


そういうとアーサーは大声で笑い出した。


そして、その笑い声は私には聞き覚えがあった。


「え? なんで? だってその笑い方は」


「君が一つ勘違いしていることを教えてやろう」


そう言って、アーサーは私の顔を覗き込んでこう言った。


「私はアーサーじゃない。ナイトだ。あいつは死んだんだ。いや、俺が殺したんだ!」


そうあの笑い方は昔のナイトの笑い方にそっくりだったのだ。


「な、なんで? あなたはアーサーじゃないの?」


「まさか、ここまで気づかないとは思っていなかったが、まぁ6年も経っているのだから気づかないのも当然か」


え? アーサーは死んでいて、殺したのはナイト…


「ちなみに言うと、君の体が言うことを聞かなくなったのも私が仕込んだ薬の」


「そんなことはどうでもいいのよ! なんで、なんでアーサーを殺したのよ!」


私は血反吐を吐きながら大声でそう叫んだ。


「大体、君が悪いんだよ。私は君のことが好きだった。なのに、アーサーにばっかりかまって僕はついでだった。」


「それは当たり前じゃない。だってあなたにも婚約者がいたじゃない」


「あんな可愛くもない女が私の婚約者なんて認めるわけないじゃないか」


「まぁ、いい。どうせ君はもう死ぬんだ。これで私は君のこともアーサーのことも思い出さないで済む」


「いいえ、あなたはこれからも一生私たちのことを忘れられないわ」


「負け惜しみかい? もういいよ、騎士団、さっさと連れて行け。私はそろそろ父のところに向かわなければならないからね」


「了解いたしました。」


私はこの瞬間あることを決めた。


絶対にナイトだけは許さない。


ナイトが私のことを好きなのであれば、絶対に忘れられないような死に方をしてやる!




昔、ピクニックにいく前に私とアーサーはある包丁屋さんに来ていた。


その目的はピクニックで草で怪我をしないように刈ったり、魚を捌いたりするためのナイフを買いに来たのだ。


そこでアーサーはこんなことを言い出した。


「あ、この色、君にそっくりだよ。そうだ! これプレゼント!」


「え、いいの?」


「もちろんさ」


「じゃあ、私もアーサーのためにナイフ選んで買う!」


「いいのかい?」


「うん!」


「じゃあ、これは君と僕を繋ぐお守りだ」


「お守り?」


「そう! これを持ってたら、君がピンチの時はいつでも僕が駆けつけてあげるよ」


そういってプレゼントしてもらったナイフはそれから肌身離さず持っているのだ。


そして、もちろん今も持っている。


そのナイフは小さかったので、騎士団にも見つからず、牢屋に持ち込むことができたのだ。


処刑される前にこのナイフで首を掻っ切ってやる。


ナイトの思う通りに処刑されてたまるものですか!




そう私は意気込んでついに処刑台の周りに集まる国民の前へと姿を現した。


周りからたくさんのヤジが飛んできていたが、そんなことは私は一つも気にしていなかった。


ただ、どうしたらナイトの記憶に残る自殺ができるかしか頭の中にはなかった。


頭の中で何度もシミュレーションをしているうちに私はついに処刑台の前まで連れてこられ、地面に下ろされた。


その瞬間、私はほぼいうことを聞かない足を全力で動かして、ナイトの前まで走って行った。


そして、ナイトの目の前で、ナイフを振り上げ自分の首に刺そうとした瞬間、隣からナイフを誰かに奪われ、抱え上げられた。


その私を抱え上げた人物は私に唯一優しくしてくれた部屋の見張りの騎士だった。


「な、なんで」


「なんでって、いったじゃないか。このナイフは君と僕を繋ぐお守りだって。これを持ってたら、君がピンチの時はいつでも僕が駆けつけてあげるよっていったのを忘れたのかい?」


「な、なんでそれを知っているの?」


それは私とアーサーしか知らない。

他の人が知っているわけがないのだ。


「なんでって決まっているじゃないか。僕がアーサーだからだよ」


「死んだんじゃなかったの?」


「殺されかけたけど、このナイフのおかげでなんとか助かってね」


そういって、アーサーは私が買ったナイフを見せた。


「あ、あ、あ、生きててよかった。アーサーが生きててよかった」


私はアーサーの声が聞こえないほどアーサーの腕の中で泣きじゃくった。


少し、落ち着いたとき、アーサーがさっきの続きを話し始めた。


「だから、今度は僕が君を助ける番だよって言いたいところなんだけど、多分王都は閉鎖されているから、捕まるのは時間の問題なんだよね。ごめんね、役に立たなくて」


「そんなことを言わないで。最後にあなたともう一度話せただけで嬉しいわ」


もう死んでいて、会うことができないと思っていた。


アーサーが目の前にいて私をお姫様抱っこをしているそれだけで夢のようだった。


アーサーは騎士団達に見つからないように道を抜けながら、走っていって、着いたのは路地裏の突き当たりだった。


「あちゃー、多分今きた道を戻ろうとしても見つかるだろうね。どうする? 出頭する? 僕は正直最後に君と話せただけで満足なんだけど」


ほのかに笑みを浮かべてそう言うアーサーを見て、6年の間にかなり顔つきも変わったなと思った。


「私もよ。でも、見せ物にされるのはちょっと嫌かしら」


せめて、アーサーが生きていると知っても、ナイトの思い描いたようになるのはごめんだ。


「そうだね。」


そう言うと、アーサーは私をおろしたかと思うと片膝をついて、ナイフを差し出してこういった。


「僕は昔から君のことが大好きでした。僕と一緒にここで死んでくれますか?」


それに対し、私はナイフを受け取り、自分のナイフをアーサーの手の上に乗せ、


「私もあなたのことが大好きです。喜んで」


と答えたのだった。







私はあいつが逃げた後も同じ場所に座ったままだった。


どうせ逃げたとしても、この王都からは出ることができない。


捕まるのも時間の問題だろうと思ったのだ。


しかし、もたらされたのはまさかの自殺したと言う報告だった。


私は急いでその自殺した現場へと向かった。


そこにいたのは私がずっと昔から好きだった人と私が殺したはずの人がお互いの胸を刺しあって、幸せそうに眠っている姿だった。


「アハハ、アハハハハハハハ」


私はその光景に両目からたくさんの涙を流しながら、笑うことしかできなかった。




多分、私は本当に一生この光景を忘れることができないだろう。

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