「後悔」と「言い訳」

「待機中の騎士隊、集合完了しました!」


「わかりました。現時刻をもって、この場にいる者への指揮は私がとります」


「はっ!」



 リディアの呼びかけで集まった、目の前の数百はいるであろう騎士たちが一斉に返事をし、移動もあって先程まで慌ただしかった場の空気が一瞬で引き締まった。

 先程の語らいの後、リディアはを使って待機中の騎士を集めてくれた。そう、神の使いだとかそういった物ではなく、彼女自身の名前でだ。この作戦を決行するにあたって、彼女はある提案をしてきた。


 ざっくり言えば「騎士たちを動かすにあたって、神の名ではなく私の名前を使いましょう。当然、私の名前を出す以上は王族といえどノーリスクではありません。ですので万が一、作戦が失敗した場合はカザマ様に挽回を手伝ってもらうことになります」とのこと。

 より簡潔に言うのであれば「私の名前で騎士動かすから、カザマ様は無理に神の使いにならなくていいよ。そのかわり成功した場合の功績は全部もらうし、失敗したら尻拭いは自分でしてね」ということだ。


 彼女からすれば、失敗しても責任の所在は神の名の元に曖昧にできるし、成功すればタダで功績が湧いてくるという、ほぼノーリスク状態なのだから実に王族らしいというか、ちゃっかりしてるというか…………

 実際俺もメリットしかない提案だから受けたのだが。かといって気が楽になるという訳も無く、実際にこの場の張りつめた空気に緊張を感じている。



「では作戦立案者より説明を。カザマ様、よろしくお願いします」


「あいよ」



 そう言われて騎士たちの前に出た俺へと視線が一気に集まり、そのほとんどが懐疑的な物だった。

 でしょうね。これからマジに軍動かすって場に、作戦立案者として15のガキが出て来たら俺でも正気を疑うわ。けど作戦自体は事前に姫様と護衛の騎士の人とも話し合っているから、まったくダメということは無い……ハズだ。



「今回の作戦は現在被害を受けている国民の避難誘導です。民を現場から遠ざけることによって、原因不明の大破壊この事態の被害を抑える事、加えて現場で身動きが取れなくなっている出動済みの騎士団の支援が主な目的です」



 そう説明をしながら控えていたメイドさんへ合図を送ると、地図が広げられる。広げられた地図の、現在出動した騎士団が孤立しているであろう場所を指しながら説明を続ける。



「見ての通り現場近くの開けた場所は、この市場のみです。ここに騎士団が前哨基地を作ろうとした所へ、混乱した住民が雪崩れ込んでいるのが現状です。なので……」



 そう、この密集を解消するには別の場所へ移るしかない。しかし地図を見る限りでは、付近に十分なスペースを確保できるだけの場所はない。そこでリディア達と話し合って決めたのが……



「次点で近い王城の庭へと民を誘導、収容します」



 そう言った瞬間、静まり返っていた騎士たちがざわめき出す。やはりこの一言が持つ意味は相当大きいようで、動揺した騎士たちの「いいのか……?」的な声が聞こえてくる。この作戦、立案段階でも問題視する声は当然出たのだが、在住の方リディアのGOサインが出たため採用された。



「静まりなさい。この作戦は私の名の元に行われます、意味はわかりますね?」



 騒がしくなった状況を見兼ねたのか、リディアが場を収めてくれた。その声で騒がしかった騎士たちが一斉に姿勢を正し、場が静まり返る。それを見たリディアが「さぁどうぞ?」とでも言いたげな目を向けてきたので、目礼を返す。



「……続けます。まずは大きく2つの班に分かれ、避難誘導を行います。片方は最短の道を通って王城を目指します。その際にこの班は避難経路の両脇へと並び、避難時のトラブルに備えてもらいます」



 そう言いながら地図上へと、騎士を模した駒を等間隔に並べていく。



「このように道の両脇に立つことで、避難の列を乱したり、はぐれてしまう人が出るのを防止します。以上がこの班の主な仕事です。残りの班は馬車を使って、怪我人や老人などの歩行が困難な人を運んでもらいます。先程とは別の大通りの道を通りながら怪我人を教会や医者の元へ、それ以外の人を王城へ避難させてください」



 俺もついさっき知ったのだが、この世界の教会は宗教的な役割の他に医療機関としての側面も持つらしい。通常の診療所もあるらしいが、教会で行使される専門の術は怪我のみ、教会の内部でしか使えないといった制約こそあるが、数分で大半の怪我を治せるらしい。

 魔術の時点で期待していたが、この世界は想像以上にファンタジーしているのかもしれない。



「説明は以上です。質問などがなければ、被害規模拡大時に備えた予備のルート選定や部隊編成といった詳細の打ち合わせに移ってください」



 手は上がらなかった。正直上がらないと上がらないで怖くはあるが、ベテランたちを信じて次の行動に移るべく、俺はその場を後にした。




 ————————————————————




「避難民は住んでる地域ごとに分けて収容してください。可能ならば名簿もあるといいですね。あとは簡易的でいいので、世帯間に仕切りを用意してもらえると尚いいです」


「かしこまりました」



 先程の騎士たちへ指示を終えた後、今度は避難所の運営を頼むべく集まってくれた執事&メイド達へと説明をしていた。概ね説明は終わったのだが、慣れない仕事にあたる騎士たちと比べて王城の使用に対しては先程よりも反応が少なく、詳細な点に対しての質問も積極的で、普段の仕事ぶりが伺える練度の高さが伺えた。



「必要な根回しはこんな感じかな?」


「まぁ概ね終わりでしょう。彼らも優秀ですから、不足があれば現場で対応してくれます」


「雑な指示で現場に負担強いるって考えると胸が痛むけどな、あれだけ細かく話してれば大丈夫とは思いたいな」



 さてと、大方の根回しが済んだことだし。したらば……



「現場、行ってくるわ」


「……今一度確認しますけど、本当に行かれるのですか?もう指示は出したのですから、後のことは騎士団に任せればいいでしょう?」


「そこはもう決めたでしょ?慣れない仕事させるんだし、絶対に現場のフォローが必要になるって」


「はぁ……野暮な質問でしたね、撤回します。護衛がいるとはいえ、お気をつけて」


「どーも、頑張って眠くなる前に終わらせてくるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガラクタの英雄譚 カイス(改名予定) @Kais082

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ