第26話
幻聴が聞こえる中、予備校に通い、勉強する。主治医の先生にも協力をお願いする。
「先生、勉強頑張るから脳のチューニングお願いします」
先生は、
「任せなさい!」
と太鼓判を押してくれる。
勉強のしすぎで眠れなくなったときとかに追加の睡眠薬を出してもらって飲んでぐっすりと眠る。当時は今みたいに障害の配慮とかなかったから本当に大変だった。今だったら別室の受験とかも出来るみたいだし。
祖母に受ける大学のことを聞くと、なんでも国語ができる人ばかり集まる大学みたいである。学部も国語特化らしい。国語が好きで国語のことを勉強したい大学ではめちゃくちゃ良い環境だそうである。
そうしている間に夏になり全国模試の時期がやってきた。僕はこのとき統合失調症を患っていたので、人の視線が気になってしまい自分のテストに集中力を持ってきちんとテストを受けられるか心配だった。
主治医に相談してみる。主治医は、
「いちおうお守りとして抗不安剤を出しておきます。ただし、ここまででもう踏ん張れないというときにこの薬を飲んでください」
「よかった。ありがとうございます」
ちなみに抗不安剤とは文字通り不安を少なくし、緊張を和らげる薬のことをいう。
受験の天王山と称される夏の全国模擬試験。模擬試験受験は本当に大変だった。対人恐怖が吹き荒れる中問題を解いた。幻聴も聞こえ始める。
「蒼くんが問題を解いています」
「蒼くんが鉛筆を握っています」
「蒼くんが問題を間違えました」
「蒼くんの目がくるくると回り始めました」
途中で精神力・体力ともに力尽きてしまったのか、人間たちが怖くなってしまった。本当に疲れた。試験会場からの帰りは文字通り足を引きずって帰った。抗不安剤も飲んだ。
一ヶ月後に試験の結果が出る。志望大学の学部はD判定だった。さらに、また幻聴が聞こえ始めてしまった。
すぐさま主治医の下に行く。
「先生、助けてください」
先生は身を乗り出して、
「どうしたの?」
「幻聴がまた聞こえ始めました。悔しいけれど」
「どういう風な幻聴が聞こえるのですか?」
「自分の行動を監視し、実況する声です」
主治医は紙にいろいろと書いている。
「受験はあきらめたくありません。先生、この間言っていた脳のチューニングお願いします」
「チューニングって君ねえ」
「お願いします」
先生は、しばらく考えていたが、
「今飲んでいる●●という薬を●ミリグラムから●ミリグラムにしてみましょう」
「ありがとうございます」
「あと今日はエビリファイを注射していきましょう」
エビリファイという薬は精神薬の一つである。僕は頭を下げるしかなかった。
「来週また来てください。絶対来てください。待っているから」
重ね重ねお礼を言う。そうして看護師に液状の精神薬の注射を左腕の肩のところに打ってもらった。
それでも幻聴が聞こえ続ける。
「蒼くんはマスターベーションしようとしています」
「蒼くんは眠りたがっています」
「蒼くんは何かを考え込んでいます」
「蒼くんは本当にぐーぐーぐー」
一日中幻聴が聞こえ続ける。あまりの幻聴のひどさに布団にもぐる日々が多くなっていく。
それでもしつこく幻聴は聞こえ続ける。それでも受験日は近づいていく。
幻聴が聞こえる中、大学に行き受験手続きをする。人が多くて、また初めて行くところで本当に疲れ切ってしまった。
受験日当日、文字通りお守りとして抗不安薬をお守りの中に入れて受験会場へと向かった。
大学に着くと、大きな看板が出ていて受験会場はこちらと書かれていた。
あいかわらず幻聴がひどい。昔先生に教わった方法、悪口が風に乗って聞こえたと感じたとしてもそれは幻聴だとわりきってしまうこと。気にしてしまうから気になるのであって、気にしないようにすればいいのだ。そうすれば楽に生きられるということ。
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