第22話

 幼きころの僕が泣くのをこらえて学校に通っている。つい最近、発達障害だということが分かったが当時は病名も分からなかったので、自身の性格の悪さが原因でいじめられるのだと思っていた。発達障害だという診断が降りて正直ほっとしている。いじめられて、精神病を患って入院して、退院して、就職して退職をしてまた就職をしてというむちゃくちゃな人生ばかり送っていたからだ。




 作者はそれから何十年も小説を書き続けた。やがて身体が動かなくなり、たびたび床にふせるようになった。幽霊のようになっても書き続けている。小説を書いている話者がふっとこっちを見た。目が合う。話者が呪文のように押し殺した声でつぶやく。




「君も芸術を描けば?」




 脳内に声が何重にも響き渡る。


「君も芸術を描けば?」

「君も芸術を描けば?」

「君も芸術を描けば?」

「君も芸術を描けば?」




 天には緑色と黄色の絵の具で描かれた太陽がぎらぎらと輝き渡る。薄い青色と赤色の絵の具で描かれたぐねぐねと曲がっている樹木。紫色の川の水が目の前に広がった。




 そのときだった。ふっと我に返った。幻視を見ていたのだった。さっきの冊子の話者であろう声が響き渡る。




「君も芸術を描けば?」



 蒼は購買部に行き鉛筆と原稿用紙を買う。そうして、もさもさと小説を書き始めたのだった。

 初めて書いた小説を主治医に見せた。しばらく読んでいたが、わっはっはと笑うと主人公、へなちょこだな、と言って、精進しなさいと言われた。主治医の目はまるで子犬のように瞬いていた。ちなみに書いた小説が次の話である。

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