第三章
第21話
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ぷはー。ここまで来て顔を上げる。ここの病院に入院してからもう3ヶ月が過ぎた。少しずつ幻聴が聞こえなくなってきたがまだ少し聞こえる。
ここの冊子に大切なことが書いてあった。
生きようとする思いは何かを為そうだとか使命だとかそんな大きなことではなくていいのだということ。
例えば、あそこのラーメンが食べたいだとか、アニメがみたいだとかマンガ連載が読みたいから生きている。そんなささいなことが生きようとするきっかけでいいのだと思った。
やっぱりこの本の作者も統合失調症らしい。この話の話者は幻聴、妄想が吹き荒れる中本を書き続けたらしい。
最後のページにこう書かれていた。
「君も芸術を描けば?」
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また主治医との面談の日がやってきた。主治医に尋ねる。
「だれがこの冊子を書いたのですか?」
「以前いた患者さんだよ」
「ふ~ん」
しばらく部屋の中がしーんと静まる。
「作者さんは今どうしているのですか? 作家さんとかですか?」
「それはわからないけど。たぶん今でも芸術作っているんじゃないかな」
「この作家さんは統合失調症ですか」
主治医は僕の目をじっと見つめると、
「そうだよ」
とうなずいた。
「統合失調症だよ」
たぬきの子 たぬきの子
たぬきの子 たぬきの子
幻想の世界へ ようこそ
幻想の世界へ ようこそ
あっけらかんの あっけらかんの
少し疲れちゃったよ
たぬきの子が空中に両手を広げては縮めては平泳ぎで泳いでいた。ひゅーんと空に玉が打ち上げられどかーんと花火が咲き誇る。
ちんちんちんちんちん
と電車の鐘がどこかで鳴る。
農場にて農作業を行う。カブの種を植え、白菜の種を植え、トウモロコシの種を植え、育て収穫する。夏は炎天下の中、熱中症にならないように水をたくさん飲み、首筋を冷たいタオルで冷やしながら作業を行う。冬は収穫した白菜などを冷たい水で震えながら洗ったりもした。虫がたくさんいて草むしりをしていると、蛾やジョロウグモがときどき飛び出してきてうわーとパニックになり背中につめたい汗がながれたりもする。
でもそんなことを含めて農業は楽しかった。トラクターとかは運転できなかったが、農場で働いていると、夕日の沈む様子も見られるし、虫の鳴く声も聞ける。鳥が芋虫などを土の中からついばむ様子も見られるし、ネコなどの昼寝も見られる。雲が風に流されていく様子も。感性が豊かになれる。
たぬきの子は、クワにて土を盛り上げながら土を盛り上げるコツをメモ帳に鉛筆でメモしている。あるときは、キュウリの網を張りながら網の張り方もメモしている。そうして農業にまつわる小説を描き上げた。
身体が半透明になっていた。仕事が終わると顔をこわばらせながら一目散に帰宅していた。そして小説を書いては、夕食を食べて精神を安定させる薬と睡眠薬を飲んで泥のように眠りについての繰り返しである。
またあるときは、飲食店で汗水を垂らして働いている。とある店でコーヒーや紅茶を入れている。お店独自のパンを焼いては店頭で販売したりもした。店にお客がいないときには、液剤をつけたモップで床をこすりクツズミをとる。くたくたになった身体を引きずり、帰ってから小説を書く。
とある職場でアルバイトをしているとき、学生たちのいるところで怒られた。一生懸命に仕事をしているのに理不尽に怒られる。ただもう何で叱られたかは忘れた。上司の機嫌が悪かったのか、それとも自分が調子に乗っていて天狗の鼻を折らなければと思われたのか。カフェで働いている人たちは体育会系の人たちが多く、対して僕の方はというと学生時代はあまり友達がいなく、またスクールカーストでも最下位のほうを走ってばかりで本だけが友達だった。だから少しテンションが合わなくて少し疲れていた。
そのときに怒られた原因は、いろいろな理由が考えられるが怒られるとやっぱりしんどいし、メンタルが大きく揺れ動く。
このときも心臓がばくばくと動いていた。苦しい。苦しい。身体から青い蒸気が吹き出て揺らめいているのが分かる。そんなある日のことである。ふっと身体が軽くなった気がした。筆にも生命が宿った気がした。たとえではあるが、感じとしては血管に筆がつながった感じがしたのだった。
書いた文字がつやっぽくきらめいて見える。
(いける! これならいける!)
仕事が終わって家に帰ると、小説のプロットを書いては消し、書いては消した。そしてまた書いた。
いつも思う。
僕の心の原風景はよくも悪くも中学校時代にあるのだと思う。特にいじめられた経験がやっぱり尾を引いている。中学校のときにいじめられたのは、自分が原因を作ったのは悪いと思う。だから別に恨んではいない。ただ自分自身の中で経験が昇華するまではいじめられたことを小説に書き続けると思った。
ただ、テレビでいじめられているのが報道されているが僕のされたいじめはそんなにひどくはないのだと思った。
精神病にはなった。ただ、いじめで殴られるとか蹴られるとかの暴力を振るわれたことはなかった。それだけはありがたかった。
やーい やーい
泣き虫 デブの汗っかき
貧民 貧民 貧民
ついでに肩にはフケだらけ
肩にフケが積もる様子は
まるで富士山に雪が積もるがごとし
はあ、なんでこんなにいじめられるのかな
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