第20話

●月●日 


 統合失調症になってもうだめだと思うことは多々ある。統合失調症というのは自分のことを悪く言う幻の声が24時間脳内に響き渡ったり、自分のことが悪く言われているのではないかと妄想してしまったりする症状のことをいう。また、余談ではあるが一説によると統合失調症になると文章が書けなくなったり読めなくなったりもするらしい。認知機能の低下というらしい。


いつも通っている主治医の元に行く。主治医が

「お疲れ様」

 と言って迎え入れてくれた。

「お疲れ様です」

「体調はどうですか?」

「大丈夫です」

 先生はパソコンを開いて何かを打ち込んでいる。言葉を選びながら話す。



「先生、生きるって何ですか?」

「何ですか? 急に?」

 涙がそこであふれ出てきた。

「先生、答えてください。生きるって何ですか」



 先生はまっすぐこっちに向き合うと、

「一体何があったのですか?」

「統合失調症の幻聴がきつすぎます。どうにかなりませんか?」

 先生は「ちょっと待ってなさい」と言うと、奥に入っていった。そして一冊の本を持ってきた。

「ここの本に書いてあるのだけどね、どうやら幻聴というのをやりすごすには、直接悪口言われない限りすべて幻聴だと割り切ってしまうのがいいみたいだよ」

「でも・・・・・・」

 先生は目を輝かせながら言う。

「でもじゃない。やってみなさい」

「分かりました」

「やってみて、それから結果を教えてください。薬の量は変えません。また来週いらっしゃい」

「はい。それでは失礼いたします」

 先生はカルテをぱたんと閉じた。




 それから

「おまえ気持ち悪い」

「変質者」

 とか本当に言われているか幻の声かは分からないけど、外で歩いていてそんな声が聞こえたりとかしたら全て幻聴だと割り切ることにした。意識的にそういう風に暮らしているうちに幻聴が気にならなくなっていった。




 それでも気分が落ち込んでしまい世の中が闇に見えてしまうことが多々ある。そんなとき、ルームメートに言う。

「自殺ってどう思う」

 ルームメートがゲームをしながら言う。

「高いところから飛び降りた死体って見たことある?」

「無いよ」

「見たら死ぬ生きるってどういうことか分かるかもよ。そういうのは見ないほうがいいけど。ゲームとかじゃないのだよ。もう詳しくは言わないけど」

「ふーん」

「死んだら残された人がどれだけ悲しむか考えたほうがいいよ。それでもやりたかったらどうぞ」

「分かった」



 とりあえず連載中の漫画が終わったら死のうと思った。そうこうしているうちに漫画を見ているうちに自分も創作したくなった。絵は描けないし音感もない。でも、世界的な賞である文学賞が小説ではある。こうして小説を描き始めた。



 しかし、創作することを始めたが、そもそも創作って何だろうって改めて思った。 

 小説の書き方の本を何冊も買って読み込む。小説の書き方の本にはプロットをしっかりと立てること、第1校は使い物にならないこと。そこから何回も推敲を重ねていくことが大事だということが描かれていた。



 それでも小説をそのまま書いていても全然うまくならなかった。だから大学で文学を学びたいと思った。大学で文学を学ぶと言うことはどういうことだろうと思った。文学の歴史を学ぶこと? 何も分からなかった。ただ文学部と名前がついているからにはいろいろと文学についていろいろと学べるのかなと思った。



 貯めていたお年玉のお金などを銀行から下ろすと、そのお金を大切に持って予備校に行った。予備校でも何講座もお金がなくて取れなくて、一講座か二講座しか取らなかったと思う。あとは自習室で勉強ばかりしていた。



 勉強したかいがあったのかそれとも運がよかったのか志望する大学の文学部に受かった。大学ではたくさんのレポートを描きまくった。高校の記憶力を試すとかと違って、大学ではレポートを通じて論理性を確かめるという能力が必要だ。得意かどうかは分からないがレポートを描くと驚かれたりしてA判定をたくさんもらえた。



改めて主治医の元に行く。主治医が言う。

「あのね、いろいろと考えたのだけど、逆に君は生きるってどう思う?」

「うーん。生きるって言うのは、よく分からないです。ですけれども死ぬ勇気があるのなら、その勇気や余命を使って、ラーメンを食べたり、創作物を作ったりしたほうがいいと思います」



 先生はわっはっはと笑うと、

「違いない。パーフェクトだ」

「はい」

「創作頑張って!!」

 そうだ。死ぬ勇気があるのなら、その勇気や余命を使って、創作をしたい。心の底からそう思えるようになった。

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