第18話
●月●日
小説を書き続けていた。その間約20年。一向に小説は鳴きもしなかったし飛びもしなかった。
公募にも落ち続けている。どんどんと心に毒がたまっていく。
羊が、めえ、と生臭い毒を吐く
牛が、ぶるう、とだらりと死の舌をだす
今年も公募に落ちた
僕の吐く息は毒の吐息だ
僕のこころは張り裂けそうだ
ちゃんちゃんちゃんちゃんと
そんなときにパソコンの中身のデータを整理しているとわりと初期の作品を見つけた。
二匹のカエルがラーメンを食べたりして夢を語り合うといった話である。本当に青臭い、青臭い話であった。
思わず、ほうと声を出してしまった。このころの僕はこんな希望にあふれていたんのだ。と勇気が出た。
ルームメートにその小説を見せる。
「このころの小説はこんなに青臭かったのだね」
ルームメートもへえといって読んでいる。
「この間の何で小説を描くのかだけど。お金のためではなく、女性にもてたいわけでもないと思うよ」
「へえ、じゃあ何のため?」
「小説を書くことで自分の分身をこの世に残したい。書くことが好きなだけ」
「それにもう精神薬15年飲んでいて腎臓とかも悪いし小説家になったところで精神力、体力が続かない。それに出版社で働いて思ったのは、本はどこから出してもいいのだと思った。それこそドグラマグラのように自費出版でもいいしね」
「何よりも最近自分がまだ半人前だと気づかされることがあってね」
ルームメートは言う。
「なにそのエピソード聞きたい」
会社でね、上司に封入作業を頼まれたのだ。封入作業は何十年もやっている作業だから簡単にできると思ったのだ。
封筒を数えて印刷物も数え、冊子もそろえて封入する。
上司に、
「それじゃあ封入作業をやっといて」
それが出来なかった。何枚封入するのかとか忘れてしまい上司に再度聞きに行ったところ、
「もういい。ほかの人に任せます」
と言われてしまった。そのあともパニックになってしまい、きれいに封緘ができなかったりしてダメダメであった。自分は短期記憶と呼ばれる記憶が弱い。短期記憶というのは、別名ワーキングメモリと呼ばれる。
ワーキングメモリとは、LITALICO発達ナビから引用すると、
「作業に必要な情報を、一時的に保存し処理する能力」
だ。自分ではそのワーキングメモリが弱いから常にメモ帳を持参しているのだが、最近では慢心だと思うが、いや慢心でメモ帳を使わなかった。そのさなかにこういうミスが出たのだった。
また、上司に、
「まだ挑戦しますか」
と言われ、少し気持ちが折れてしまい
「ほかの人にお願いします」
と言ってしまった。今度は自分の記憶力には頼らずメモ帳をしっかりと活用しようと思った。
ルームメートにその話をしたところ、
「ふーん」
「僕は天才じゃなかった。それどころか半人前なのだと分かった出来事だったよ」
「でもね」
ルームメートの瞳をしっかりと見つめる。
「だからこそ、まだ能力に伸びしろ、たくさんあるって分かったのだよ」
「それにね、梱包作業は在宅ワークをするときにも必要になるしね。全ての業務は自分たちの夢につながっているのだから頑張んないと」
ルームメートはほうほうと言うと、
「そうそうその意気!」
そうして今日も筆を握り作品を作り続けるのだった。
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