第17話

 ●月●日


 夏目漱石がこう述べたそうだ。

わけのわからないまま時代に流されるのは嫌である。さりとて、旧時代にこだわり続けるのもおろかである。



 また松尾芭蕉もこう述べたそうである

不易流行と。



コトバンクより


不易流行(読み)ふえきりゅうこう

松尾芭蕉の俳諧の理念。伝統を踏まえつつ、一方では新しいものを取り入れることが大切だとする説。



 不易流行と言う言葉は、『去来抄』という松尾芭蕉の弟子である去来という人が書いた本に載っているらしい。僕が不易流行という言葉を嵐山光三郎著の『悪党芭蕉』という本で知った。だから松尾芭蕉の述べた不易流行の意味は確実には分からない。



 今回、夏目漱石と松尾芭蕉の言葉をかみしめて考える出来事があった。ルームメートと少し議論したことがある。

「Lちゃん、少しいいかなあ」

 Lはベッドで横になりながら動画を見ている。

「何?」

「僕って古いものにとらわれすぎかなあ?」

「なんで?」

「最近、ライトノベルとかで異世界ファンタジーが流行っているじゃん」



 ライトノベルというのは、10代読者に向けて書かれた分かりやすく読みやすいイラストや挿絵を多用した娯楽小説のことをいうらしい。

 具体的にはまだ明確な基準がなされていないらしい。

 で、異世界転生ファンタジーというのは、僕が読んでいる小説をもとにすると、なにかしら事故が起こって主人公が死んでしまい、ファンタジー世界に転生し、特化した能力をもらい世界をエンジョイする話である。



 Lは天井をしばらく眺めてから

「そうだね」

「僕はかたくなに異世界転生ファンタジーを書かないでいる。最初はね。ただの一過性の流行だと思ったのだよ」

「今異世界転生ファンタジーは漫画でも多いよね」

「異世界ファンタジーはただの流行なのかな、それとも一つのジャンルになりつつあるのかな」

「一つの流れにはなっているね」

「それでね、夏目漱石の言葉にもあるのだけど、わけのわからないまま時代に流されたくはないけど、旧時代にとらわれるのはおろかであると『草枕』で述べているのだ」

「で?」

「僕は古いものばかり読むじゃん。僕っておろかなのかな」

「そんなもんは自分で考えなよ」

「Lちゃん、異世界ファンタジーどうして売れているか考えてみたのだけど、みんな現実世界では疲れ切っているのじゃないかな」

「そう」

「家に帰ってまで難しく考えたくないもん。ハーレムとかチートとかゲームとか動画とか小説でも見ていて承認欲が満たされるもん」

「そうだね」

「時代は流れているのだね」

「●も異世界ファンタジー描いてみたら?」

「えっ、僕が?」

「描いてみたら何か掴めるかもよ!」

「うん・・・・・・」

「批評家じゃなくてクリエイターにならないと」

「考えてみる・・・・・・」



 そのときから異世界ファンタジーについていろいろと調べ始めた。 いろいろと異世界ファンタジーの本を読んでみたが、どうやらファンタジーといいつつもどっちかと言うと、ゲームのプレイヤーとしてのファンタジー物語のようだった。自分の能力のステータスが見られることそして女神様と称する世界を統べるものから一つ特典として能力がもらえること。あまたのファンタジーゲームなどをやっていてこれと同じだなと思った。



 それでも僕はかたくなに一般に明治の文豪と言われる小説を読み続けた。純文学といわれるものを書き続けた。

 ある日のことである。ある出版社の記事を読んでいると昔からいるどうやら白血病を患っているらしい作家が記事を投稿していたのを見つけた。そこには、60歳を超えてなお、異世界ものかは分からないがライトノベルを描くことに挑戦しているとのことだった。



 ルームメートにそのことをちょっと話してみる。

「この間、異世界転生ものを書くといってからずいぶん経つじゃん」

「まあねえ」

「今日面白い記事見つけたのだけど」

「なになに?」

「60歳を超えて、白血病を患っているプロの作家が残りの人生でライトノベルを書くことに挑戦しているのだって」

「すごいねえ。●も見習わないと」



 年を取ってきたら新しいものを認めたくなくなるのも分かる。今まで自分が一生懸命に勉強や仕事をして会得した技術、価値観を否定されるのは心が引き裂かれる思いがする。でもこの白血病を患っているプロの作家は、余命を知ってもなお、新しいものに挑戦しようとしていた。この作家のことはあまり詳しくは知らないけど、心に小骨のようなものが引っかかっている。

「古いものを知ることは大事だし、新しいものを知ることも大事だと思うけど」

「うんうん」

「今の時代は、100人いたら100人の考え方があってそれぞれに正しいのだと思うよ。少なくとも自分の考えは自分の考えとして持っておいてもいいけどそれを他人に押しつけたくはないなあ」

「そうだね。他人の人生まで自分がしょいこむことないよ」



「その上で改めて聞くよ。●はどうしたいの?」



「異世界転生ファンタジーはもちろんのこと、時代物、現代物、SF、ミステリー、今はいろんなものを書いてみたいな」

「そうだね。小説を書くのはこうすべきだとするのは、いいか悪いかは置いておいて小説はそんなちっぽけなもんじゃないよね」

「創作は自由だよね! その上で自分だけの創作物を作ればいいよね。異世界転生ファンタジーも描いてみたいな!」

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