第16話

●月●日


 他の人は知らないが、僕は生きて何か行動すると恥ばかりかく。今会社で働いているのだが、行き帰りの道のりでよく人にぶつかったりする。男の人にぶつかるのだったらまだいいが、女の人にぶつかったときには痴漢に間違われないかとヒヤヒヤする。今回はそんな恥知らずな物語だ。


 そのほかにも道を歩いているとき、ふっと男性でも女性でも道を横切られたり、道を抜かされたりすると、ふっと意識がそっちに行ってしまう。

 視線の先にその人を捉えたくないのにその人を目で追いかけてしまう。他にも視線が途中で固まってしまうときがある。




 時は10年以上前、今通っているのではない主治医に相談したことがある。その主治医は70代のおじいさん先生だった。黒縁のめがねをかけ、身長が180センチくらいありそうである。目が子供のようにくるくると輝いている。

「今日の調子はいかがですか?」

 実はそのときから目の調子がおかしかった。でもこんなことなかなか相談することはできない。女性が気になって目で追ってしまうなんて!

「大丈夫です」

 主治医は本当ですかと問う。

「本当は・・・・・・先生、僕を軽蔑しませんか?」

 主治医はきょとんとする。

「僕はね、さんざん人の哀しいところとかを見てきたのだよ。本当にね。だから大丈夫だよ」

「実はですが、派手な洋服とか着ている人とかが前に歩いているところを見たりだとか、歩いているときに前を横切られたりしたときとか、目がそっちを追ってしまいます。男性だったらいいのですけれど、女性の場合だったら罪悪感が湧いてしまいます」

「何も危害を加えていないのだね」

「はい」

 しばらくして主治医は、わっはっはと笑い始めた。そうして、

「すまない、笑っちゃいけないね」

 居住まいを正すと、

「君にこの言葉を贈るよ。気になるけど、気にしないこと」

「気になるけど、気にしないこと」

「どういうこというとね。道を歩いていると人が気になるかもしれないけど、気にしないこと」

「そうそう」

 主治医はカルテをパタンと閉じると、

「来週も来なさいよ」

 

 

 そのことを思い出しながら歩く。が、会社でも道を歩いているとよく人と視線がぶつかる。そのたびに自分が何か悪いことをしてしまったのではないかといろいろと想像してしまう。たまたま上司と話す機会があり、相談してみる。

「●●さん、ちょっと相談あるのですけど」

「なんですか?」

「道を歩くときどこを向いて歩いています? よく本には前を向いて歩きなさいとあるのですが、よく人と視線がぶつかってしまい疲れてしまいます」

「そんなことも分からないのですか?」

「統合失調症になったことが原因かは分かりませんが、今まで意識しないでできていたことができなくなってしまいました」

 上司はなるほどといい、

「私はまっすぐ前を向いて歩くのではなく、斜め前を見て歩くことを私は行っています」

「あと人とぶつかりそうになったら一度止まったほうがいいです」

 と言うことを教えてもらった。




 いろいろと助言をいただいたことについて自分なりに気になるけど気にしないこと、斜め下を向いて歩くことについて考え続けた。

 治らなくて悩み続けた。そんな自分が嫌で嫌で仕方が無い。そんな中ふっと思った。気にしないということは意識をそらしてしまえばいいのではと思った。最近発見した方法がある。その方法とは意識がほかの人、歩いている人に向いてしまったりとかして頭の中がプチパニック状態になったら地面を見つめながら歩いて心の中で一、二と数えている。




 それでもやっぱり目の症状がきつい。そこでいろいろと自分でも何が原因で目がおかしくなっているのか調べた。




 インターネットで「視線 おかしい」「視線 恐怖してしまう」「視線 緊張してしまう」などいろいろと検索ワードを入れて調べる。

 すると、視線恐怖症、発達障害の視覚過敏とか検索結果がいろいろと出てくる。



 視線恐怖症というのは、他者からの視線が気になるという状態と自分の視線が相手に迷惑をかけていないかという状態のことをいうらしい。



 発達障害の視覚過敏が原因というのは、日光がまぶしすぎたり、蛍光灯がまぶしすぎたりして体力を使い切って疲れてしまい、目が暴走してしまうのではないかと仮説を立てた。

 視覚過敏軽減で調べると、遮光めがねがいいと載っていた。まぶしさなどを軽減するめがねらしい。度が入ってだいたい6万円くらいだった。遮光めがねを買ったエピソードはまた今度。



 遮光めがねを使ってみて思ったことは、もう遮光めがねを手放せないと思った。遮光めがねを付け忘れて普通のめがねで会社に出社して一日過ごして帰ってきたときには、目がくらくらして疲れがどっと出る。遮光めがねをかけてだいぶ楽になった。

 後々、主治医に目のことを相談したら、統合失調症の加害妄想が影響しているのではないかと言っていた。



 加害妄想というのは、自分の行動が他人に害をなしているのではないかといった主観的な考えをしてしまうことである。なるほどと思った。やっぱりお医者さんはお医者さんなのだな、すごいなと思った。その話もまた今度。



 そんな生きづらい自分ですがなんとか生きています。創作ができるから生きています。漫画が読めるからアニメが見られるから小説が読めるから美味しい物が食べられるから生きているだけなのです。それだけのためにそれだけのために生きているのです。

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