第12話

●月●日


 小説を作り続けているとよく道に迷う。僕は小説家になりたいのか? それとも芸術を作りたいだけなのか? ふっと疑問に思った。

 平たく言うと、何のために小説を書きたいのかである。



お金が欲しいから? 

女の人にモテたいから? 

それとも自分のことを社会に認めてほしいから?



 確かにお金が欲しいし、女の人にモテたいし、芸術賞をとって社会に認められたい。

 


 今回心が本当に揺れ動く出来事があった。

 従兄弟が漫画家になったと親から聞いたのだった。一口に漫画家と言ってもいろいろあるし、そもそもどんな漫画を描いているのか分からない。

 実家に懐かしさが募って両親に会いに行く。実家には一時間ほどで到着した。途中駅でお土産を買って持って行った。

 


 実家には11時頃到着した。母親に水餃子をごちそうになった。うちの水餃子は少し特殊で、水餃子をすくって醤油で食べるのである。おいしい。そんな中、ふっと従兄弟の話が出たのだった。

 そもそもいとこが漫画家志望なのは知っていた。漫画家志望だけどお金がないからエンジニアをやっている。最近では子供も二人できたらしいことも。夢を追っているもの同士少し意識もしていた。こっちが一方的に思っていただけかもしれないが。母親に聞いてみる。



「漫画家目指していた従兄弟いたじゃん。今でも夢追っているの?」

 母親は何気なしに言う。

「漫画家になったって聞いたわよ」

 そのとき、とっさに、

「へええ~。すごいね」



 という言葉が出た。その言葉は少しうわずっていたのに自分でも気づいた。そのときには何も思わなかったが帰ってから少しずつ悔しいなと言う気持ちと嫉妬でいっぱいになった。


悪いことは続くものだ。実は公募に小説を出していたのだが、雑誌で結果が出たのだった。



第一次審査落選。



ルームメートが、

「気にするなよ。書き続けなよ」

「うん」

 というしかなかった。自分の応募した小説の賞を取ったのは、19歳の青年だった。

僕は●歳だから●歳も年下に負けたのか・・・・・・。



 落ちこんで寝込む。ぐちゃぐちゃになった心をノートに書き出す。ぐちゃぐちゃになったとき自分自身に問うことにしている。小説を書く目的はなんだ。


 商業小説をかくことか、お金を稼ぐことか?


 違うだろう。お前は自分自身の分身を書き残したいから書くのだろう。自分自身のために自分の生きた証を残したいから書くのだろう。




 自分自身の分身をこの世に残したいから描いている。

 真っ黒になった心を昇華させ芸術を作りたいから作っている。

 自分のために小説を描いている。




 次の日、起きてパソコンを開くと意味もない言葉の羅列が書き綴られていた。かすかに意識の片隅に残っているのは、真っ暗な闇の中パソコンで何かを書き綴っていた。



 いつも通っている精神科の主治医のもとに行く。ことの顛末を話す。従兄弟が漫画家になって少しいらいらしたこと。小説の公募にまた落ちて心理面的に追い詰められていること。意識がないまま小説を描き続けていたこと。先生は黙って聞いていたが一言つぶやく。



「君は有名になりたいから小説を描いているの?」

「君は他人に認められたいから小説を描いているの?」



 黙るしかなかった。

 家に帰るとルームメートがパソコンでゲームをやっていた。

「ただいま~」

「おかえり~」

 そのまま二人とも無言になる。何か話しかけようとしたけどルームメートはやっぱりゲームに夢中だった。仕方がないので、僕も読みかけの小説を開いて読み始める。しばらくすると、ルームメートが一言。

「今週末、残念会をやろう」

「うん。ありがとう。何食べる?」

「そうだな~。ぱ~っと焼き肉食べ放題とかどう?」

「いいね。やけ食いだ」



 土曜日に焼き肉屋に行く。受付を通って席に着く。従業員が食べ放題のランクを聞いてくる。一人あたり4000円の食べ放題を頼んだ。上のランクに6000円の食べ放題があったが、傷ついた心でも理性が働くらしく6000円は無理だった。タブレットでいろいろ肉とサラダを頼む。しばらくして大量の肉と野菜が運ばれてきた。肉を焼くと胃がぎゅーぎゅーと鳴る。早く早く焼いた肉を胃にぶちこんでほしいと鳴いている。両面焼くと、二人とも無言で肉を飲み込む。




 牛カルビに骨付き肉、ホルモン、サラダなどひたすらに食べまくる。

「うまいな」

「うん。うまいうまい」

 僕が言う。

「また小説書き続けるよ」

 ルームメートはにっこりと笑う。

「そっか」

「また頑張るよ」

「僕はどっちでもいいよ。●が小説を書き続けても書き続けなくても。それは自分で決めることだよ」

「分かった~」



焼き肉を食べると、そのまま家に帰って昼寝をする。すうっと眠りについて、ふうっ、と意識が戻る。大きく、ふああ、と口を開けてあくびをしながら伸びをする。




 布団から出るとメモ帳を取り出しプロットを書き綴った。そうしてまたもそもそと今日も小説を描き続けるのだった。

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