第4話
すぐさま入院したときに親からもらったお小遣いをもって購買部に行く。少しだけある本棚のスペースに行くと、統合失調症について書かれている本を探した。
いろいろと本を吟味する。専門書みたいな本や教科書みたいな本、それこそよりどりみどりである。最終的に選んだ本はマンガチックなイラストがふんだんに使われ、統合失調症についてわかりやすく書かれている本を選んだ。
部屋に帰ると、コップを取り出し部屋に付いている水道から水をくみ一息に飲み干す。久しぶりに購買部までとはいえ身体を動かしたのか少し息が上がっている。少し眠い。それに少し暑い。汗ばんでいる。ズボンをぬぎ、本を備え付けの棚に置くと、ベッドの中にもぐりこんで目をつむった。
たぬきの子が右手を突き出してひらりと手のひらを動かす。それとともに右足もそっと前に出す。右手を引っ込め、左手を突き出す。こうしてたぬきの子は踊っている。たぬきの子が歌う。
たぬきの子 たぬきの子
ひらりひらりと舞い踊り
ひらりひらりと舞い歌い
「たぬきの子 たぬきの子
なんでそんなに唄っているの?」
「たぬきの子 たぬきの子
きみも同じく病んでしまったのだね」
たぬきの子は踊るのを止めると、目をごしごしとこする。そうして、泣きそうな笑いそうななんとも言えない顔をすると、へへっと笑った。そうしてはーっとため息をついた。たぬきの子はつぶやく。
「統合失調症って何だろう?」
そこで、すうっ、と目が開いた。部屋の中は電気がついていた。緑色のカーテンももう閉められている。
さきほど買った統合失調症に関していろいろと説明している本を手に取ると、ぱらぱらとページをめくった。
統合失調症は幻の声である幻聴や、周りから悪口を言われているなどのいわゆる妄想ー幻の思考ーをしてしまう、または本が読めなくなる。短期記憶と呼ばれる記憶力の低下などの認知機能の障害です。
そしてこうも書かれていた。
統合失調症は脳の病気であり、そして10%の割合で子供に遺伝する病気と言われています。
その一文を読んで、文字通り天を仰いだ。
トウゴウシッチョウショウハコドモニイデンスルビョウキデス
そうすると、僕は誰か女性と付き合って、セックスをして子どもを為したとしてもその子どもは10%の割合で統合失調症になってしまう。大事な自分の子どもを不幸にしてしまう。
こりゃ一生独身だな。結婚することは人生の墓場だとは聞いていたけど、セックスも出来ない禁欲的な生活をこれから何十年も続けていかなくてはいけないのだとふっと思った。
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注意! 統合失調症の発症原因は諸説あるらしく、必ずしも遺伝だけではなく環境も大きく影響していると書いてある本を見つけました。詳しくは遺伝と環境うんぬんの議論は精神科の先生に伺ってください。
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ひっく、ひっく、急にしゃっくりが出ると止まらなくなった。
僕は統合失調症なのだ。
ひっく、ひっく、ひっく
ひっく、ひっく、ひっく
しゃっくりが止まらなかった。気持ちは晴天の風がない、おだやかな海の波のように静かだった。悲しいとかそういう気持ちは不思議と一切無かった。ただ、
ひっく、ひっく、ひっく
ひっく、ひっく、ひっく
しゃっくりの音が部屋にただただ響き渡っていたのだった。
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