第3話

 病院にはちょっとした図書室も併設されていた。そこにはマンガや小説、辞書、ちょっとした医学書なども置かれていた。

 最近とても知りたいことがあった。僕の病気である幻の声とか幻の思考が頭を駆け巡るとはいったいどんな状態だろう。そして僕の病気の正式名称は何だろう。そんなことが頭の中を駆け回っていた。

 ある昼下がりのことである。この日はしとしとと雨が降りしきっていた。少し蒸している感じがする。病室から空を見上げると厚い灰色の雲がペルシャじゅうたんのように幾重も天をおおっていた。

 雨の日は嫌だ。じと~と空気が重くのしかかる感じがするし、雨に濡れると身体が凍え冷え切ってしまって、しんどい感じがするからだ。



 そんな日にいつもの通り、幻の声が響き渡っていた。

「バカ、アホ、間抜け」

「●●君は、雨の空を眺めています」

「情緒あふれる天気ですね」

「雨のしたたるこの町は」

「時雨、時雨、五月雨、五月雨、雨よ、雨よ、降り続けよ、雨よ、雨よ」

 



 この病気はなんなのだ。たまらなくなってベッドから身体を起こして立ち上がる。靴の代わりにスリッパを履くと部屋を抜け出した。服はパジャマのままである。向かった先は図書室だ。

 図書室には誰もいなかった。国語辞典を探すと●●国語辞典という背表紙を見つけた。辞典を取り出し、キーワードでいろいろと調べてみる。


 幻の声 幻の考え 精神病・・・・・・。


 幻聴 妄想 幻視・・・・・・。


 調べていくと、「統合失調症」という単語に行き着いた。


 統合失調症ーとうごうしゅちょうしょうー


 実際には起こっていない悪口などが聞こえたりしていたり、そう思い込んでしまうことなど、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患である。


 僕は統合失調症の部分を何回も読み直した。これだ。僕の病気は統合失調症だ。統合失調症なのだ。



 それから主治医と面談したい旨をナースステーションにいる看護師に伝える。それから数日後、席を設けられる。そのときはベッドに潜り込んで昼寝をしていた。そこへ、やっぱりドアをバンとあけて主治医が入ってきた。

「蒼さん、時間がとれました。今なら話が聞けます」

「ありがとうございます」

 主治医に連れられて面談室に入る。奥の席を勧められる。おじぎをして座る。

「で、何でしょうか? 看護師の●●さんに私になにか話があるって聞いたのですけれど」

「はい!」

 そこで話に詰まる。のどに言葉が詰まって出てこない。先生はじっと黙っている。しばらくして少しずつ言葉を紡ぎ出していく。



「僕の・・・・・・」

「僕の病気は・・・・・・」



 そこで息が出来なくなる。そこでスーハーと深呼吸をすると、一気に言った。

「僕の病気は統合失調症ですか?」

 先生はじっと僕の目を見ると、



「そうです」



 と告げた。

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