12 それぞれの悩み






 雑貨屋から少しだけ歩いて、何処から挨拶回りに行こうかとシェルリアと共に道の端で悩んでいると、何処からか声が聞こえてきた。


「いらっしゃいいらっしゃーい、強くて頼もしい武器や防具、新作はいかかでですかぁー」


 武器・防具屋と書かれている店先で、くすんだ金色の髪の男性がそう客を呼び込んでいた。


「おっ、あれはフューゴさんだな。しかし店の外で呼び込みなんて珍しいぞ」


 シェルリアがフューゴと呼んだ男性は、道行く観光客らに店を勧めている。この光景は、シェルリアにとっては珍しいものだそうだ。


「おーい、フューゴくーーん今日はどうした、珍しいなー」


 シェルリアはそう言って、男性に駆け寄って行く。エルザも、シェルリアの後を追いかけて行く。


 男性は駆け寄ってくるシェルリアとエルザに気付き、一旦呼び込みをやめて、二人の方を見た。


「あぁ…シェルリア…、と、そっちは初めまして。俺はフューゴです。見ての通り武器屋と防具屋をやってます。とは言ってもまだ見習いですがね」


 くすんだ金色の髪の男性─フューゴは、エルザにそう言ってお辞儀をした。


「私はエルザです。この街に住むことになって、挨拶回りに来ました」


 エルザも、そう言ってはお辞儀をして。シェルリアが何か言いたげな顔をしてエルザとフューゴを見るが……、エルザは気付かず。


「エルザさんですね。挨拶回りでしたら店の中にティアナという方が居るので、その方にも挨拶しに行ったらどうでしょうか。俺は客寄せしないといけないので…」


「店の中にティアナさんという方がいるんですね、分かりました。では私は店の中に入るので…お仕事のお邪魔してすみませんでした」


 エルザはそうフューゴに言うと、ティアナという人物がいるという店内へ入っていった。シェルリアはなんとも言えぬ表情をする。そんなシェルリアを気にするような目でフューゴは見たが、観光客に話しかけられたのでシェルリアは放って観光客の対応を始めた。



 シェルリアは放っておかれたので、エルザの後をついて武器・防具屋へ入っていった。



「おっじゃまー」


 シェルリアが店内に入ると、既にエルザとティアナらしき女性は話していた。


「貴女はエルザってイウの?いい名前じゃナイ。私はティアナよ。宜シクね?」


 話し方に少々癖のあるティアナ。だがエルザはそんな事を気にすることも無く、「こちらこそ宜しくお願いします」と笑顔で言っている。接し方に大差があるが、シェルリアと同じ性格なの#かも__・__#知れない。細かい事は気にしないという。



「ン?あらシェルリアじゃナイ。見て、私もウエルザと仲良しになっタノよ」


 と、エルザの肩を掴むティアナ。こうして見てみるとティアナは女性だが、筋肉質だ。エルザよりも遥かにがっちりとしているし、力もそこらの男よりあるかもしれない。



「いつになくご機嫌だなティアナさん。あとこうして並んでるとティアナさんの筋肉すごいな!その売ってるのも自作なんだろっ?」


 シェルリアは武器や防具の並ぶ棚を指差した。


「そーヨ、決まってルじゃナイ。こっちノ棚はフューゴが作ったのヨ!私にはまだマダ及ばないケど、結構いい出来なノ」


 エルザの肩を掴みながらそう言うティアナ。自作した物が武器や防具として売られているのか。だからなのだろう、値段もそこそこお高い様に感じる。


「弟子の自慢ももうワタシは聞き飽きたぞー。それと今日は何でフューゴくんは外で客寄せなんかしてるんだ?」


 いつもなら店に閉じこもってるのに、とシェルリアが言うと、ティアナは難しい顔をして言った。


「あノ子には外の空気を吸わセナいと。店ニ篭もリッぱなしなンテ、体に悪いデしょッテ。あと色々なモノに興味を持ッテ欲しいカラ、ね」


 ティアナが言うにはフューゴは店の事以外興味が無いようだ。悩める店主…、エルザになにか出来ないだろうか。だが…エルザはまだこの街のことを詳しく知らない。なので当然、まだ何も出来そうにはなかった。





           ◆




「で、次はどこに行くんだ?」


 武器・防具屋を後にしたエルザとシェルリアは、次に挨拶しに行く場所を考えていた。今近くにある店はさっき寄った武器・防具屋と、雑貨屋、レストラン。そして、宿屋だが……。


「今日の宿屋さんは何でやってないんだ?ゼンさんもイリスも何してるんだ?」


 宿屋の前までシェルリアは寄って、そうこぼした。エルザが服を取りに行った時も、誰もいなかった。人の気配すらなかった。普通、外にこれ程観光客らがいたら宿屋にも居ないと不自然な気もするが……。たまたま宿屋に客がいなくて、シェルリアの言ったゼンとイリスという人物も留守にしているだけなのかも知れない。



「まぁそのうち戻って来るだろうな。だからエルザ、別のとこに──」


 シェルリアが続けようとした時、突然ギュルルゥーーという音が何処からか鳴った。


「……………」


「……………」


 音の出処は、シェルリアのお腹。要はお腹の音だった。


「お腹すいたな……そういえばワタシレストラン行こうとしてたのにエルザに会って、挨拶回りに付き合ったんだった……」


 確かにエルザがレストランから出た時、ばったりシェルリアに会ったんだった。もう時間はお昼をとっくに過ぎている。今の時間ならば、レストランは少しは空いているだろう。エルザは、レストランではエテリーネ以外の二人とまだ挨拶をしていないので、シェルリアと食事ついでに挨拶をしてしまおうと思った。



「ならレストランに行こうか?私まだレストランだとエテリーネさんにしか挨拶してないから……」


 エルザがそう言うと、シェルリアは


「いいのか!?悪いな、エルザっ!」


 と、とても喜んだ。エルザとしても、空腹のまま連れ回すのは悪いと思っている。何よりこの街の人達と仲良くしたいから、嫌われるような事はしたくないのだ。


「何を食べようか……あー、考えるだけでお腹が空いてくるぞっ!エルザ、早く行くぞっ!」


「ちょ、シェルリア…」


 ラービスにシェルリア、どうして腕を引っ張りたがるのか……とエルザは思いつつも、歩いてゆく。



 また、もうすぐ潰れそうなレストランへ、来た道を戻って。



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叶願の軌跡 凍明 @07toua

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