この作品は、一筋縄ではいかない竜退治の冒険譚でありながら、キャラクターたちの歪さと奇妙な連携が読者を引き込む独特な世界観を持つ作品です。
なんといっても、登場人物たちのキャラクター造形の魅力です。貴族令嬢コラリーの理想主義と世間知らずな行動力、騎士崩れのギョームの疲れた現実主義、そして快楽的で謎めいたカディジャや他の奇怪な仲間たちが生み出す絶妙な化学反応。彼らのやり取りは軽妙でありながらも、どこかしらの不安定さが漂い、読み進める手を止められなくなります。
また、物語のテンポ感も抜群です。竜討伐という壮大なテーマを扱いながら、物語は意外な方向に進むこともしばしば。例えば、盗賊団との戦いや精霊との交渉といったサブクエストに見えるエピソードが、物語全体に厚みをもたらしています。その一方で、緊張感に満ちた戦闘シーンや作戦会議によって、竜退治の核心へと引き寄せます。
そして、作品全体に漂う「奇妙さ」が本作の最大の魅力です。典型的な冒険譚でありながら、キャラクターの狂気や不器用さ、そして竜そのものの存在感が、常識を軽々と飛び越える異世界感を創り上げています。まるで、ページをめくるたびに「次は何が起きるのだろう」という不安と期待が入り混じった感覚を抱かせる作品です。