第三部: 秋、遥かなるポーチ
どうしてそんな事をするんだ、とお父さんが言う。じきに直ぐやってくる。じきに直ぐやってくるから、それまでじっとしていられるね。
悪党はね、みんな見てるのよ。だけどそれを言い出せないの。それを聞いてあげるのがお仕事なの。
『揺り籠、揺り籠状になった椅子、役割として揺り籠になった椅子、が判事を静かに揺らしています。誰かが振り子を巻き上げるまで、彼はずっとあのままでしょう。』
キャシディは本を読み上げ終えると、音をさせない様に閉じました。
お父さんはどこ?お父さんは出かけてるの、まだ帰ってこないのよ。まだ晩ご飯の支度もできていないのに、帰ってきたら困るでしょう?
この判事さんみたいにね、ポウチに居るの。広くて目に見えるものしか見えない平原を見ているのよ。お姉さんは言います。判事さんは庭にいるの?
判事さんはね、特に意味がなくても椅子に座ってなくちゃいけないの。
※
ジェファーソン群に設置された巡回裁判所は内実、神判を仰ぐ法廷と見るなら随分といい加減なようだった。宣誓台ほどの大きさの机が裁判官の前に寂しく置かれていて、傍聴席から仕切りを挟んでこちら側には椅子が4脚用意されているだけ。しかも正しく使われてはいない。向かって右側の三人は椅子の背を立って掴むか正面に向けて座り直しており、残るもう一人も重心移動によって徹底的に椅子の後ろ脚を痛めつけていた。
「父の名のもとに真実を告げると誓いますか」
「誓います」眉一つ動かさず保安官は言った。「それをお望みなら」
洪正荘は客家人であり、父親は役人から逃げ出し福建から南へ下りた寂れた港町、そこで何とか暮らしていた船渡しだった。ある時突然外国人が戦艦と共に乗り付けて、又は地政学的思惑による資本投下によって、付け加えればイギリス人は商品を買わない隣人が大嫌いであったから、只の漁村は巨大港湾として生き直す。シンガポール。埋め立てと砲台の町。
だが彼らは異邦人に容赦はない、植民地警察は税関を通さない麻取引を厳しく取り締まった。鉄と轍、金で靡かない
今立っているこの場所は何処だ?カリフォルニアではないようだし、道すがら会う人々は黒人、キューバ人、メキシコ人…。ところで法廷に出ているのは全員白人だった。それじゃあどうして洪正荘は窓の外から見ているのか?
「実に良い質問だ」保安官は苦笑した。
「
「当時の状況をもう一度伺います、宜しいですね」
「何なりと」
「扉を叩いて被害者を大声で呼んだ。出てこなかった為銃を抜いて家に踏み込んだ」
「ああ」
「すると扉の後ろに隠れていたヘンケルスが飛び出て、手斧を片手に襲い掛かった」
「全く」
「それでは貴方はわざわざ彼の遺体を移動させたんですか?彼はポウチの外に倒れていました、扉からは10フィートは離れています」
「逃げながら応戦した。死体がそこにあったからって、襲われたのが室内だったのは変わらないでしょう?」
「そうかもしれません」検事は前の判事に向かって軽く会釈してから、ようやく席に座った。
お父さんが柵を、少しだぼついた体をゆらゆらさせて、柵をとび越えた。お気に入りの馬が倒れている。お姉さんが名前をつけた。エラい偉い将軍さまの名前だ。
でも、大統領にはなれなかったの。大統領よ。とっても立派な、立派なお仕事なの。判事の次にね。
お父さんは寝ているキャシディを抱えます。飯事係のBJも飛んできて、それはもう偉い騒ぎです。お父さんは息をぜいぜいとさせた馬を見て、BJの腕よりみじかいライフルを分捕りました。
全てを窓の外側から見ていた洪は、恐らく何かを感じたのかもしれません。つまりどうやら判決は下って、保安官はその職を安堵されたこと。正義は為されること。今のところはまだ。
ですがもう窓に張り付くことはできませんでした。マンサ・ムーサが手錠に繋がった鎖を馬の上から引っ張ったからです。
1894年 @o714
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