本作の素晴らしい点は多々あるのだが、まずは何より犬の描写を褒め称えたい。
こちらの言葉をよく理解している聡明さ。それでいて何でも口に含んでしまう間抜けさ。シャンプーを嫌がる臆病さも、率先して家族を守らんとする勇敢さも、どれもこれも、身に覚えがあるものばかりだった。
ファンタジー作品と言えども、変わらぬものはある。
それは、犬に限った話ではない。
本作は細部に至るまで地に足のついた描写ばかりであり、その丁寧に紡がれる言葉の節々からは、家族への愛情が滲み出る。
そして、ふとした瞬間にポロリと涙がこぼれ落ちるのだ。
この、スーッと心に染み渡るような温もりに満ちた作品に出会えたことを感謝したい。
ああ、イッヌ……イッヌに会いたい……