第17話 よたび女神の間

「なんじゃ、おぬしらまた戻ってきよって……。ふぁああ、ああーん」


「仮にも女神なんだから、こっち向いて大あくびしないでくださいよ」


 俺とミヤは、再び見慣れた空間へと戻ってきていた。

 怠惰ながらも美しかった女神は、人の子を前にひどい醜態を晒す。


「仕方ないじゃろ、おぬしに構ってて、こちとら完徹してしまったのじゃ」


「完徹?」


「ええ! そうとは知らず、たいへん失礼いたしました」


「申し訳ございませんでした。でもおかしいな、俺はぜんぜん眠くない」


「そういえばそうですね。私もです」


「そりゃあそうじゃろ、おぬしら死んじゃったんだから」


 あらためてそう言われると、気分が凹む。


「うー。そろそろお勤めの時間が来てしまうのじゃ……。おぬしら代わってたもれ」


「またそんな無茶ぶりを。女神さまの代わりなんてできませんよ」


「何をされるのでしょうか?」


「お外でるのじゃあ」


「……それだけ?」


「だけとはなんじゃ、だけとは。そんなこと言うなら、人の世なんて滅ぼしてしまうのじゃ!」


「た、たいへん失礼いたしました、どうかそれだけはお許しください」


 いったい何を司っている女神なのだろうか。

 あんな性格では、居ても居なくても変わらない緩い権能に思えてしまうが。


「変な時間に食べたから、胃が痛くなってきたのじゃ。おぬしらのせいじゃあ」


「深夜にポテチと煎餅を食べてしまったのは、どう考えてもご自分の責任ですよ」


「だって暇だったんじゃもん。まあよい。次の試練を与えよう」


「ちょっと待ってください。女神さまが公務中だったり就寝のときにお力を借りたい場合は、いったいどうすればよいのですか?」


「今までどおりでよい。わらわはすごい女神じゃからして、べつに問題ないのじゃ」


「なんだか申し訳ない気もしますが……」


「遠慮せずともよいぞ」


 魔神のアバターを呼び出すようなものだろうか。

 冥界に関する女神には見えないが、人の生死を左右するほどの存在ならば、さほど気にする必要はないのかもしれない。


「お次はこのオンラインゲームにするかのう」


「え? ネトゲは際限なく増えていくから、ラストもなにもない気がしますが」


「いいや。『エヴォカー・オブ・ティル=ナ=ノーグ』、聞き覚えあるじゃろ?」


「それは数年前に終了したものじゃないですか! そんなものも可能なので?」


「わらわに不可能はない。RPGだろうがMMORPGだろうが」


 複数のプレイヤーがひとつの世界に集まるゲームを異空間で遊ぶっていうのか?


「まさかエミュ鯖ってやつ……? そもそも著作権はどうなって──」


「間違えるでない、神さまエミュ鯖じゃ! わらわの被造物が作ったものじゃから、何したっていいの!」


「深く考えないことにしよう。きっと合法なんだ。うん、そうに違いない」


「あはは……」


 サービスが終了した、あるいは現行のバージョンに納得ができず、勝手にサーバーを建ててオンラインゲームを遊んでいる者たちが稀にいると聞く。

 未練がましいというか、厚かましいというか、いずれにしても褒められた行為ではないだろう。

 まあ、神族とは人間の倫理観が当てはまる存在ではない。気にしたら負けだ。


「それにしてもあのゲーム、課金ゲーで戦力差があったのに協力プレイだったから、晒しがひどかったなぁ」


「わらわの弟は、暴言厨としてよくたたかれておったのう。弱ければ即ブロックで、仲間内でつるしあげておったのじゃ」


「その情報は聞きたくなかった」


「なんだか怖いですぅ」


「あげくは本人が孤立して、姉として恥ずかしかったのじゃ……」


 ネトゲは現実の縮図。いろんな者がいる。

 そういえば変わった人もいたなと思いながら、俺たちはまばゆい光に吸い込まれていった。

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