Ep9.ぶつかる思い
人族の村に魔物を引き連れて来たのは紛れもなくマーレンだった。今まで見たこともないほどの魔物の数・・・。魔物自身も、意志を持ち合わせたかのように村へと向かっていた。その様子を見ていたコメリアがあることに気付いた。
「あの魔物たちって・・・まさか操られているんじゃない!?」
「そんなことできるわけ・・・でも待って・・・。」
「俺も聞いたことあるかも。魔族の中には、極稀に闇の力を持ち合わせたツワモノがいるって・・・。その力さええれば、心を操ることができるって・・・。」
3人の会話を聞きながらスレグは、トラウェルから教わったことのある言い伝えを思い出していた。
*・*・*
「今日はとても大事なことを教えよう。まだ人族と魔族が対立していたころ、君たちと同じように、双子の王子が誕生した。2人のうち1人は闇の力で魔物の心を操り、もう1人は魔物の心を静める力を持っていた。闇の力で魔物の心を操れるようになった王子は、己の力を過信するようになり、魔物を操り人族、魔族関係なく攻撃し、多くの犠牲を生んでしまった。王子の力は次第に暴走し、彼の心までも暗闇に支配されてしまった。暴走を止めるにはもう1人の力によって封印するしかなくなり、その時の魔王の目の前で封印する魔法を施した。」
「トラウェル先生、心を静める力を持っていたのに、どうして封印をしてしまったのですか?」
「痛いとこをろ突いてくるね・・・。言うなれば・・・静める力が弱かったんだよ。王子同士はとても仲が良かった。心を静めることで元に戻ると思っていたんだが、思いは届かなかったんだ。」
*・*・*
幼い頃に教わったことを思い出したスレグは、状況が似ていると思った。だが同時に、彼には何の力もないことに気付かされた。
「僕には・・・一体何ができるんだろう・・・。」
「弱気になるな!!」
そう言ったのはカイルだった。睨みつけるような鋭い眼差しにスレグは怖気づいたが、彼なりの励ましだと前向きに捉え、マーレンに向かって声を上げた。目の前で友人を亡くしたときのことを思い出し、自分自身を鼓舞するように叫んだ。
「マーレンっ!!!!」
その声に反応したマーレンは不敵な笑みを浮かべ、スレグの方をじろりと見た。同じように、村に向けて前進していた魔物たちの群れも、マーレンがいる方へと向き直った。
「よう、根性なしの弟よ。」
威圧的ともとれる態度、話し方、表情において、今までとは違う様子にスレグは戸惑いを覚えつつ、負けじと言葉を発した。
「ここから先へは行かせない!!」
「よく言うぜ。お前に何ができるんだ?」
「止めてみせる!!」
「くくくくくくくく、はははははははは。笑わせてくれる、何の冗談だ?お前に何ができるんだ。騎士団からも逃げ、挙句村からも逃げてるじゃねーか。」
「・・・・・・。」
言い返せすことができないスレグ。唇を噛みしめ、何か策はないか考えていると、隣にいたライラが口を開いた。
「逃げてないわ!!」
「なんだぁ?貴様・・・。」
一斉にライラの方を睨みつけるマーレンたち。彼女の姿を見たマーレンは、ふとニヤリと笑みをこぼした。その様子にライラたちは背筋が凍りそうになった。
「貴様は確か・・・我が
スレグは気づいてしまった。
今、こうして話をしているのはマーレンではないと―――。
真相を確かめるため、スレグは意を決して問いかけた。
「お前は何者だ!!マーレンをどこにやった!?」
「何を言う、目の前で話をしているではないか。」
「お前はマーレンじゃない!!」
産まれたときから同じ時を過ごし、兄のことは誰よりも知っているスレグ。外見は兄にそっくりでも、話し方や態度、何よりもマーレンが知り得ないことを言っている点で気付くべきだったと、少しばかり後悔していた。
「トラウェル先生から聞いた話はお前のことだったのか。」
「何の事だ?」
「双子王子の・・・悲劇。」
「くふふふふふふ。そんなこともあったな。さすがは王家の者。同じ双子として産まれ、兄マーレンには邪心、闇の力を持ち合わせ、魔物を操ることができた。だがどうだ?我らと同じ双子でも、貴様には何の魔力もない。哀れな弟よ・・・。この私が潔くあの世とやらに送り込んでやる。そこにいる皆の者、忌々しい人族も道ずれにしてくれるわ!!」
マーレンは封印されたはずの魔物の誘惑により利用され、暗闇に心を支配されていた。自我を失い、ただただ操られるだけの傀儡になり果てていた。
〈マーレンを救う手立ては何かないのか、ライラの持ち合わせている矢で何とかならないか、こんなときに役に立てないなんて・・・〉
悔しさのあまり、ぎゅっと目を瞑った――—。
いつも守られるばかり・・・。
誰かの役に立ちたい・・・。
―――守りたい人を守るための力が欲しい。
強く願った途端、まばゆい光がスレグを包み込んだ
ライラの一矢~想いを乗せて、矢を放て!!~ 虎娘 @chikai-moonlight
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