バトル・オブ・ザ・ハイスクール

シン01

バトル・オブ・ザ・ハイスクール

 ──6月7日水曜日午前8時5分。


 通学で賑わう時間帯であり、愛煮田あにた高校、通称・アニ校に通う白崎 闘護しろさき とうご星川 陽織ほしかわ ひおりも通学の途中であった。

 黒髪オールバック、制服のブレザーを袖まくりしている青年・白崎闘護と、切りそろえた黒い長髪でにこやかにしている少女・星川陽織は幼馴染であり、毎日一緒に登校していた。


長身の男

「おうおう、今日もおアツいねーお二人さん!」


 闘護たちに声を掛けたのは獅子渡 太雅ししど たいが

 闘護と陽織の友人であり、身長180cmで髪型は茶髪のソフトモヒカン、季節を問わず半袖の夏服を着ているのが特徴の青年だ。


陽織

「私たちは、幼馴染でまだ・・そういう関係じゃ……」


闘護

「そうだぞ、ただの友達でい!」


陽織

「えっ……、ただの友達……」


 少し顔を赤らめる陽織だが、闘護の言葉に少し落ち込む陽織。


太雅

「リア充め。羨ましい限りだぜ」


闘護

「リア充? 誰が?」


太雅

「やれやれ、相手がこんなのじゃ苦労するな、星川」


陽織

「あはは……、まあね」


 三人でワイワイと話しながら通学路を歩く。

 信号が変わり、赤になったことで三人は止まって信号が変わるのを待つ。


闘護

「あれ、竜法たつのりがいねぇな。いつもこの辺で会うのによ」


 竜法たつのりとは、闘護たちの友人である雨宮 竜法あまみや たつのりの事で、普段はアニ校の近所の信号で待ち合わせをしていたのだが、今日はいつもの場所に竜法はいなかった。


陽織

「特に休むとか連絡は入ってないよ?」


太雅

「俺にも何もないぜ」


闘護

「先に学校に行ったのかもな」


 信号が青に変わり、三人は歩き出す。

 

 アニ校に到着し、靴を履き替える三人。

 闘護は2-C、太雅は2-B、陽織は2-Aで、それぞれ別のクラスなので、各々自分のクラスへと向かう。

 ちなみに竜法のクラスは2-Dである。

 教室に入り、席に着いた闘護はクラスメイトが話している噂を耳にする。

 それはアニ校の生徒が他校の不良に襲われたという噂だった。

 物騒な噂だなと思いつつ、闘護は朝のホームルームが始まるのを待つのだった。



 午前の授業を終え、昼食の時間となる。

 陽織と太雅が弁当箱を持って闘護の教室へとやってきた。


陽織

「また寝てる……」


太雅

「なんで留年しねぇのか不思議でならねぇぜ」


 授業を睡眠学習していた闘護は二人に起こされ、弁当をカバンから取り出す。

 それぞれクラスの違う闘護たちはいつも中庭に集まって昼食を食べていた。


闘護

「ん? 竜法は?」


太雅

「それがよ、2-Dに行ったら居なくてよ。今日は休んでるらしいぜ」


闘護

「マジか。そんじゃ、俺たちだけで行くか」


 中庭へ行き、いつものように中庭で昼食を食べる三人。

 三人で弁当のおかずや午前の授業についてなど、他愛もない会話をしていたが、陽織の言葉に空気が変わる。


陽織

「二人は噂、聞いた?」


闘護

「アニ校の生徒が襲われたってあれか?」


陽織

「うん、もしかして雨宮君は……」


太雅

「どうだろうな、放課後にでもアイツの家に寄ってみるか」


 帰りに竜法の家に寄ることにし、三人は昼食を済ませ、それぞれの教室に帰っていく。

 下校時間となり、三人で集まって竜法の家に行こうと話しているときだった。

 闘護たちは竜法のクラスの担任に声を掛けられる。


竜法のクラスの担任

「君たちは雨宮君と仲が良かったな。少し話がある」


 竜法のクラスの担任に言われ、何の用だろうと思いながら、三人はその後ろをついていく。

 三人は応接室に案内され、座るように言われる。


竜法のクラスの担任

「雨宮君の事なんだが、落ち着いて聞いてくれよ」


 竜法は他校による愛煮田高校の生徒襲撃に巻き込まれ、大怪我を負って現在入院していると教えられた。

 驚く闘護たちに竜法のクラスの担任は、君たちが見舞いに行くと竜法も少しは元気が出るだろうと、入院先を教えてくれた。

 闘護たちは急いで教えてもらった病院へ行き、竜法の容態を確認する。


陽織

「3-は、雨宮様。ここね」


闘護

「大丈夫か竜法!」


竜法

「大きい声を出さないでくれたまえ、傷に響くよ」


太雅

「竜法、お前……」


 病室に入った三人は竜法の姿に言葉を失う。

 いつも七三で分けられていた髪型はボサボサになり、頭には包帯が巻かれている。

 左目には眼帯が付けられ、左手と右足はギプスで固定されており、顔や体のあちこちには殴られた跡があり、絆創膏やシップがいくつも貼られていた。


竜法

「ひどい目に遭ったよ、全治2週間だとさ。ま、利き手は無事だし、意識もはっきりしているから勉強する分にはあまり困らないけどね」


太雅

「お前ってやつは、そんな状態でも勉強かよ。筋金入りのガリ勉だな」


竜法

「眼鏡もスマホも壊されてね、遠くは見えないし、暇つぶしも出来ない。勉強くらいしかやることがないのさ」


 竜法の言葉に苦笑いを浮かべる太雅。

 闘護は怒りに震える拳を隠して竜法に問う。


闘護

「誰に、やられたんだ」


竜法

明塔めいとう高校の連中だよ。白崎たちも明塔高校の生徒には気を付けろよ」


 明塔めいとう高校。通称・メイトー。

 愛煮田高校などがある東地区にある高校で、喧嘩自慢の不良が多いことで有名な高校だ。


竜法

「見た目は凄いことになってるけど、僕は割と元気だよ。でもまあ、今日来てくれたことには礼を言うよ」


陽織

「今度はちゃんとお見舞いの品を持ってくるね」


 闘護たちは竜法の無事が確認できたので帰ることにした。

 病院を出た三人の表情は暗かった。

 竜法は元気そうにしているが、友達が全治2週間の大怪我を負わされ、他校の生徒がアニ校の生徒を襲っているという噂は真実だった。

 闘護と太雅は陽織を家に送り届ける。

 襲われたアニ校の生徒は今のところ男子のみと竜法のクラスの担任から聞いているが、女子が襲われないという保証は無い。

 陽織を家に送り届けた後、闘護は太雅に声を掛ける。


闘護

「この後時間あるか? 話がある」


太雅

「奇遇だな、俺もだ」


 二人は近所の公園のベンチに腰掛ける。

 日は傾き、遊んでいた子供たちはすでに帰っており、公園には闘護と太雅の二人だけだった。


闘護

「竜法と初めて会った時も不良に絡まれてたな」


太雅

「去年の話か、懐かしいな」


 闘護たちと竜法との出会いは1年の時であり、竜法が他校の不良にカツアゲされている所を闘護と太雅が救ったのがきっかけであった。

 

 闘護は陽織の祖父が開いている道場で星光波動拳せいこうはどうけんという拳法を学んでいる。

 陽織の祖父に陽織を守れる男になれ、と幼い頃から星光波動拳を叩き込まれていた。

 そのため闘護は腕っ節が強く、中学三年まで喧嘩三昧の日々を送っていた。

 闘護と太雅が出会ったのは中学生の時であり、当時無敗であった闘護を倒すために太雅が挑み、いつしか喧嘩友達となった。

 高校進学を機に闘護は普通の学生生活を送りたいと思い、喧嘩をやめ、そして、太雅とは喧嘩友達から親友・相棒の間柄となったのだった。


闘護

「いっつも不良に絡まれてるよな、竜法あいつ


太雅

「めんどくさい奴を引き寄せる何かを持ってるのかもな」


闘護

「かもな。だが、今回の事は許せねぇ……」


太雅

「ああ、メイトーのクソども。タダじゃおかねぇ!」


闘護

「メイトーに借りは返さねぇとな」


太雅

「明日か?」


闘護

「ああ、8時集合だ」


 闘護と太雅の話は終わり、二人はそれぞれ公園を後にする。


***


 ──6月8日木曜日8時0分。


 闘護と太雅は昨日の公園に来ていた。


闘護

「準備できたか?」


太雅

「おうよ。星川にも学校休むってメールしたしな」


闘護

「んじゃ、行くか」


陽織

「ちょっと待って」


 陽織の声に闘護と太雅は驚く。


闘護

「な、なんでお前がここにいるんだよ!」


陽織

「あんたたちが考えてることぐらいお見通しよ、長い付き合いだしね。……行くんでしょ、メイトーに」


 二人は何も言わない。

 陽織に心配をかけないために、メイトーに乗り込むことを話さなかった。


陽織

「止めはしない。だから、ちゃんと無事に帰ってきて。約束だよ」


 陽織は鞄からお守りを取り出し、闘護と太雅に渡す。


陽織

「これは貸すだけだから、ちゃんと返してよ」


闘護

「へっ、昼飯までには学校に帰るよ!」


陽織

「うん、待ってる」


 陽織は敵地に向かう男二人の背中を見送った。



***



 ──6月8日木曜日8時45分。


 メイトーこと明塔高校の校門には数人のヤンキーがたむろしていた。

 伝統のウンコ座りで他愛もない会話をしている不良たち。


闘護

「オラァ! ダチの借りを返しに来たぞコラァ!」


 闘護は校門のヤンキーの一人に挨拶代わりに飛び蹴りを喰らわせる。


ヤンキー

「なんだなんだ!? カチコミか!?」


太雅

「おうよ! お前らがアニ校に売った喧嘩、俺たちが買ったぜ!」


 突然の襲撃に混乱するヤンキーに太雅は回し蹴りを放ちノックアウトする。

 5人ほどいたヤンキーは瞬く間に闘護と太雅に倒され、地面に転がる事となった。

 校内に向かおうとする二人の前に巨漢が立ち塞がる。


「そうはいかねぇ! この『門番』、中島 進なかじま すすむがいる限り、カチコミなんざさせねぇ!」


 中島進、異名は「門番」。

 明塔高校1年、クラスは1-2。身長185cm、体重80kg。

 角刈りに厳つい顔の強面。1年であるが、年相応に見られないことに悩んでいる。

 頑強な体と打たれ強いタフさが武器。

 敵の攻撃をその体で受け止めて耐え、その巨躯から繰り出す圧倒的な一撃で敵を倒す戦闘スタイルを取る。


闘護

「邪魔だデカブツ!」


 闘護のパンチが進の腹にヒットするが、進は顔色一つ変えず、闘護のパンチはあまり効いていないようだった。


「なんなんだぁ? 今のは?」


闘護

「一発で倒れないなら、倒れるまでぶち込むまでだ!」


 闘護はパンチのラッシュを繰り出す。

 進は防御の構えを取ることもなく、闘護のラッシュを体で受け止める。

 拳の雨を受け続けていた進だが、攻撃に転じ、闘護を掴まえて投げ飛ばそうと、闘護に腕を伸ばす。

 闘護は素早く身をかがめて進の腕を躱す。


「ん? しまっ……!」


 進はしゃがんだ闘護の後ろに、こちらに向かって走ってくる太雅を発見する。

 太雅は助走の勢いをつけて、闘護を飛び越えて進の顔面に強烈なドロップキックを繰り出す。

 顔面にドロップキックを喰らった進は後ろに吹き飛び、地面へと倒れて気絶する。


太雅

「頭の中は筋肉じゃなかったらしいな」


 門番・中島進を倒し、二人はメイトーの校舎内へと突入する。


 木造の古めかしい校舎に突入した闘護と太雅。

 壁の掲示板には旧校舎と書かれていた。

 教室から次々と不良が出てくる。

 侵入者を排除せんと不良たちは二人に攻撃を仕掛ける。


太雅

「一人一人は大したことねぇが」


闘護

「数が多いな」


 不良たちに囲まれる闘護と太雅。

 二人は背中合わせに構え、互いが互いの背中を守るように戦う。

 闘護と太雅は不良を倒しながら校舎内を進む。

 そんな二人の前に長ランに金髪リーゼントの不良が立ちはだかる。


三郎

「門番を倒したみたいだな。俺は北里 三郎きたざと さぶろう、壊し屋って呼ばれてるモンだ。よろしくなぁ!」


 北里三郎。異名は「壊し屋」。

 明塔高校3年、クラスは3-3。身長165cm、体重75kg。

 金髪リーゼントにサングラス、夜露死苦の刺繍が入った長ランがトレードマーク。

 必殺の拳打「ハートブレイクアタック」を必殺技とし、パンチ技を得意とする。


 三郎は近くにいた太雅にハートブレイクアタックを繰り出す。

 紙一重で躱す太雅。


太雅

(とんでもねぇ拳圧だ。あれに当たったらただじゃ済まねぇ……!)


 太雅は蹴りで反撃するが、三郎は回し受けで太雅の蹴りを防ぐ。


闘護

「必殺の正拳に回し受けの防御か、やるな……。うおっ!?」


 取り巻きの不良と戦いながら太雅と三郎の戦いを分析していた闘護だが、不良の一人に背後を取られ、後ろから組み付かれる。

 闘護は背中から壁に体当たりし、背後に組み付いた不良にダメージを与え、拘束が緩んだ隙を逃さず、不良の腕を掴んで背負い投げの要領で背後の不良を投げ飛ばす。


 太雅は得意の足技で攻めるが、三郎の回し受けに防がれ膠着状態となっていた。


太雅

(わかって来たぞ。野郎、攻撃も防御も手強いが、機動力は低い。何より……)


太雅

「足元がお留守だぜ!」


 三郎の強烈なパンチを躱し、足払いを放つ太雅。

 弱点の足元への攻撃に対応できず、三郎は背中から床に倒れ込む。

 起き上がろうと上体を起こしたところに太雅の蹴りが顔面にクリーンヒット。


三郎

「俺が、負けるなんて……。すまない、帝王カイザー……」


太雅

帝王カイザー? 誰だそいつは」


三郎

「メイトーの、頂点。メイトーの生徒は、全員帝王カイザーのしゃ、て……」


 言葉の途中で三郎は気を失う。

 壊し屋の異名を持つ三郎が敗れたことで旧校舎の不良たちは戦意喪失し、闘護と太雅から逃げていく。


太雅

帝王カイザー、そいつがアニ校襲撃を指示した奴ってわけか」


闘護

「見つけ出して、ぶちのめしてやる!」


 旧校舎を制圧した二人は先へと進み、広い場所に出る。

 そこは体育館だった。

 体育館にも不良はおり、闘護と太雅は戦闘となる。

 体育館にいる不良は運動系の部活に所属している者が多く、校門や旧校舎の不良よりも手強い。

 囲まれないように壁を背に戦い、徐々に不良の数を減らしていく二人。

 そんな二人の前に柔道着姿の男が立ちはだかる。


剣児

「こんなところまで侵入されるとはなぁ。まあええ、この技巧派・南野 剣児みなみの けんじが相手や!」


 南野剣児。異名は技巧派。

 明塔高校2年、クラスは2-2。身長170cm、体重60kg。

 スキンヘッドで眼鏡をかけており、柔道着を着ているが、柔道部というわけではない。

 合気道を心得ており、敵の攻撃を受け流して相手を投げ飛ばすテクニカルな戦法を取る。


 先に仕掛けたのは太雅。得意の蹴りで先手を取る。

 しかし、太雅の蹴りは受け流され、逆に投げ飛ばされてしまう。


太雅

「なんだぁ!? どうなってやがる……!?」


 投げ飛ばされた太雅は何が起きたのか理解できなかった。


闘護

「相手の力に自分の力を上乗せしてはね返す、合気道の技の応用か」


 武道経験者の闘護は剣児の技を見抜く。


太雅

「柔道着着てんのに、正体は合気道部かよ!?」


剣児

「ワシは柔道部でも合気道部でもない。柔道着の方が制服より楽やから着とるだけや」


太雅

「なんじゃそりゃ!」


 今度は闘護が剣児に攻撃を仕掛ける。

 闘護はパンチを繰り出し、剣児はそれを受け流し、闘護を投げ飛ばそうとする。

 しかし、闘護を投げ飛ばす事が出来なかった。


剣児

「ジブン、何した!?」


闘護

「『衝力』。拳法・星光波動拳の技の一つ、敵の力に己の力をぶつけて相殺する技だ」


 闘護は剣児の投げ飛ばそうとする力に、自分の力をぶつけることによって、剣児の投げ飛ばしを封じた。


闘護

「俺の方が技巧派だったらしいな」


剣児

「やかましいわ!」


 闘護は連続パンチでラッシュを繰り出し、剣児に反撃の暇を与えない。

 剣児は闘護のラッシュを受け流すが、投げ飛ばして反撃できないため、徐々に押され始める。


 投げ飛ばされた太雅は体勢を立て直し、剣児の取り巻きの不良と戦っていた。


 闘護のパンチが剣児の頬をかすめる。


闘護

(こいつ、ジャブみてーな速い攻撃には弱いみてーだな)


 闘護はラッシュからスピード重視の攻撃へと切り替える。

 素早い左ジャブで顔を狙う闘護。対して剣児は両腕を交差させ、防御の構えを取る。

 しかし、顔を狙う左ジャブはフェイントであり、本命は右のボディブローだった。

 闘護の右が剣児のがら空きの腹に直撃する。


剣児

「おっふぅ!」


 剣児は膝をつき、腹を抱えてうずくまる。

 戦闘不能になった剣児を見て、不良たちは闘護と太雅に敵わないと悟り、次々に体育館から逃げ出していく。


 闘護はうずくまる剣児の襟を掴んで持ち上げる。

 

闘護

「テメーらの親玉、帝王カイザーはどこだ!」


剣児

「し、新校舎。三階、の、奥の、教室」


太雅

「新校舎、あっちの奇麗な建物か!」


闘護

「よし、行くぞ!」


 闘護は剣児を放し、二人は新校舎へと向かう。


 新校舎に突入する闘護と太雅。

 新校舎にも不良はおり、闘護と太雅は戦いながら3階を目指す。

 1階の不良は人数が多かったが、2階では不良の人数は減り、3階に不良はいなかった。


闘護

帝王カイザーがいる階だからか? 不良がいねぇな」


太雅

「休憩できるから楽でいいけどよ、嵐の前の静けさみてーで不気味だな」


 二人はメイトーの新校舎3階を歩いて移動する。

 校門からずっと戦い続けていたため、二人は歩きながら息を整え、帝王カイザーとの戦いに備える。

 二人は歩いて廊下を進んでいくと、最奥の教室の前に一人の男が立っていた。


闘護

「お前が帝王カイザーか」


丈二

「違う。僕は西谷 丈二にしたに じょうじ帝王カイザーの右腕であり、この学校のNo.2、『ザ・セカンド』だ」


 西谷丈二。「No.2ザ・セカンド」の異名を持つ帝王カイザーの右腕的存在。

 明塔高校2年、クラスは2-4。身長173cm、体重65kg。

 黒髪で前髪で片目を隠している優男。短ランを着ており、背中に大きく「帝」の刺繍があるのが特徴。

 素早いフットワークと強烈な蹴りによる足技を得意とする。


闘護

「つまり、テメーを倒せば、残りは帝王カイザーだけだってわけだ!」


丈二

「待て、帝王カイザーはタイマンを好む。どちらか一人だけ教室の入れ。中に帝王カイザーがいる」


太雅

「闘護、お前が行け。俺はこいつを倒す!」


闘護

「太雅……、わかった。後でな相棒!」


太雅

「負けんなよ、相棒!」


 二人は拳を合わせて挨拶を交わし、それぞれの敵に向かう。

 闘護は丈二の横を通り抜けて、一つしかない教室のドアを開けて中に入る。

 教室の中にはソファーがあり、ソファーには鋭い目つきの銀髪オールバックの男が足を組んで座っていた。


闘護

「オメーが帝王カイザーか」


銀牙

「そうだ。東条 銀牙とうじょう ぎんが、メイトーの帝王、それがこの俺だ」


 東条銀牙。「帝王カイザー」の異名を持つ明塔高校の頂点。

 明塔高校3年、クラスは3-1。身長178cm、体重70kg。

 鋭い目つきと銀髪のオールバックが特徴で、左肩に天下無双の刺繍が入った長ランを着ている。

 己の拳一つで荒れくれ者の集うメイトーを纏め上げた強者であり、攻撃力パワー防御力ガード持久力スタミナ機動力スピード、全てにおいて高い能力値を誇るメイトー最強の漢。


闘護

「やる前に聞きたいことがある。なぜアニ校を襲った?」


銀牙

「俺の目的達成のためだ」


 銀牙の語る目的とは、明塔高校を東地区最強の喧嘩校にし、さらには西地区、北地区、南地区の全地区を制覇し、地区最強になる事だった。

 東地区制覇のために、東地区で近くにある愛煮田高校から喧嘩を仕掛けたと話す銀牙。

 銀牙の目的とアニ校襲撃の理由を聞き、闘護は拳を強く握り込む。


闘護

「テメェの下らねぇ妄想のせいで竜法はボコられったって訳か! ふざけやがって!」


銀牙

「下らねぇ妄想だと? テメェ!」


 銀牙は組んでいた足を戻し、ゆっくりと立ち上がる。

 両者は構えを取り、愛煮田高校の勇者と明塔高校の帝王との戦いが始まろうとしていた。


***


 教室の外で、太雅と丈二の戦いは始まっていた。

 互いに足技を得意としており、激しい蹴り合いが繰り広げられる。


太雅

(この野郎、俺と似たような戦い方しやがって。ミラーマッチしてる気分だぜ……)


 太雅の蹴りを丈二が躱し、丈二の蹴りを太雅が蹴りで攻撃を逸らす。蹴りで蹴りを迎撃し、戦闘は激しさを増していく。

 連戦の疲れやダメージから太雅の方が劣勢であり、丈二の強烈なキックに押され始めていた。


太雅

(このままやってても勝てる気がしねぇ……、あんまり得意じゃねぇがパンチも使って戦わねぇと!)


 丈二のハイキックを太雅は両腕でガードし、距離を詰めてパンチを繰り出す太雅。

 しかし、丈二のフットワークは素早く、その拳は空振りに終わる。

 キックにパンチと五体をフルに使った総力戦で挑む太雅だが、丈二の素早い動きに苦戦し、攻撃を当てられずに体力を消耗していた。


太雅

(全力でやってんのに攻撃が当たらねぇ。攻撃が当てられりゃ、何とかなりそうな気はするが……。ん、そうか!)


 太雅はガードを少し上げ、体ではなく顔の守りを固める。

 顔の周辺の守りを固めたことで、胴体の守りが手薄になる。

 その隙を見逃さない丈二ではなかった。

 素早いステップで距離を詰め、太雅の腹部に強烈な蹴りを放つ。

 腹部に蹴りが突き刺さる太雅だが、踏みとどまって攻撃を耐える。


太雅

「掴まえたぜ!」


丈二

「……貴様ッ!」


 太雅は蹴りを受けた瞬間に素早く丈二の足を掴んだ。

 胴への攻撃を誘い、ダメージ覚悟で丈二の足を掴まえる、それが太雅の作戦であった。

 太雅に足を引っ張られ、バランスを崩す丈二。片足で耐える事は出来ず体勢を崩して床に倒れる。

 すかさず馬乗りになり、マウントポジションを取る太雅。


太雅

「これでちょこまかと逃げられねぇな!」


丈二

「くっ……! 僕を倒したところでお前たちは帝王カイザーに勝つ事は出来ない!」


 太雅は左手で丈二の胸ぐらを掴み、右手を振り上げる。


太雅

「そんなことはどうでもいい! こいつは竜法の礼だ!」


 拳を振り下ろし、丈二に強烈なパンチを叩き込む太雅。

 太雅の全力のパンチを喰らって、丈二は意識を失い、だらりと床に寝転がる。


太雅

「とんでもねぇ強敵だったな。帝王カイザーはこれ以上ってことか。今行くぜ闘護!」


***


 闘護と銀牙の拳がぶつかり合い、戦いの火ぶたが切って落とされる。

 銀牙の正拳を真半身で躱し、そのまま回転の勢いを乗せて肘打ちを繰り出す闘護。

 闘護の肘打ちを左手で受け止め防御し、銀牙は右手を突き上げ、闘護の顎を狙って掌打を繰り出す。

 バックステップで距離を取り、闘護は銀牙の掌打を回避する。


銀牙

「俺の舎弟を倒してきたってのに、なかなかやるな」


闘護

「あんな奴ら、準備体操にもならなかったぜ」


銀牙

「そうか」


 不敵に笑う銀牙は距離を詰め、再び正拳を繰り出す。その拳は先ほどよりも速い。

 避けられないと悟った闘護はガードを固め、銀牙の拳を受け止める。

 防御を固めた闘護だが、銀牙の拳を受け、数歩後ろに引き下がる。


闘護

(なんてパンチだ、速い上に重い……! こいつ、さっきとは動きが違う)


銀牙

「準備運動は終わりだ。ようやく体が温まって来たからな」


闘護

(さっきまでので準備運動ってか。帝王カイザーの名は伊達じゃねぇな……)


 銀牙が前に出て攻撃を仕掛ける。

 繰り出される正拳を払い、向かってくる蹴りを躱し、再び襲い来る拳を防ぐ。

 銀牙の攻撃に防御で精一杯の闘護。

 しかし、守りを固めているだけでは勝てないことは闘護も分かっていた。

 銀牙の拳のラッシュに防御を固めて耐え、闘護は反撃の機会を窺う。

 ラッシュの息継ぎの間、その一瞬の隙間を見逃さず、闘護は反撃に転じる。

 迫りくる拳を拳で撃ち落とし、闘護も拳のラッシュで対抗する。


銀牙

「ラッシュの速さ比べでもする気か? 無駄なことを!」


 ぶつかり合う拳と拳。激しい拳打の応酬により戦いは激化する。

 ついに銀牙の拳が闘護の顔面に直撃。

 これまでの連戦の疲れやダメージが蓄積していた闘護は踏ん張る事が出来ず、後方へと殴り飛ばされてしまう。

 壁にぶつかって止まった闘護は立っている事が出来ず、その場にへたり込む。


銀牙

「終わりだな」


 座り込む闘護に止めを刺すべく銀牙はゆっくりと歩み寄る。

 高く振り上げられた拳が闘護へと振り下ろされる。


闘護

(ここまでか……!)



 闘護に振り下ろされた拳は、突如現れた蹴りによって真上に打ち上げられる。


銀牙

「なんだと!?」


太雅

「待たせたな相棒!」


闘護

「太雅!」


 銀牙は距離を取り、太雅と対峙する。


銀牙

「お前がここにいるということは丈二は負けたか」


太雅

「とんでもない強敵だったぜ、あいつは……!」


銀牙

「当たり前だ、弱い奴を右腕になどするものか」


 両者構え直し、戦闘が再開される。

 先に仕掛けたのは太雅だった。回し蹴りを繰り出す。

 銀牙は姿勢を低くして回し蹴りを回避し、そのまま足払いを繰り出す。

 太雅は後ろにジャンプし、足払いを躱す。

 前に出る勢いと体重を乗せ、キックを繰り出す太雅。

 太雅のキックに合わせて、今度は銀牙が回し蹴りを繰り出す。

 太雅のキックと銀牙の回し蹴りがぶつかる。

 

 競り勝ったのは銀牙だった。

 太雅の連戦による疲労と丈二との戦いでの足へのダメージの蓄積を見抜いた銀牙は、太雅の足を狙って回し蹴りを繰り出したのだった。

 銀牙の回し蹴りを喰らって、ダメージの限界を超えた太雅は踏ん張る事が出来ずに蹴り飛ばされる。

 すぐさま起き上がろうとする太雅だが、足の痛みで立ち上がる事が出来なかった。


銀牙

「お前はしばらく、そこでそうしてろ」


太雅

「くっ……!」


 銀牙は太雅に背を向け、闘護の方へと向き直る。

 そこには再び立ち上がった闘護がいた。

 決着を着ける、互いに言葉にはしなかったが、闘志がそう言っている。


 銀牙のパンチを再び真半身で躱す闘護。

 今度はそのまま拳を突き出す。

 星光波動拳の技の一つ、拳打の衝撃を体の内側に叩き込む技「衝入拳しょうにゅうけん」を繰り出す。

 衝入拳を胸に喰らった銀牙だが、止まることなく攻撃を続ける。


銀牙

「小賢しい真似を! 鍛え上げた力は技を凌駕するということを教えてやる!」


闘護

「化け物め!」


 パンチの衝撃を体の内側に余すことなく叩き込まれたにも関わらず止まる事のない銀牙に対し、闘護も止まることなく衝入拳を撃ち込み続ける。

 お互いにもはや躱すこともせず、ただひたすら殴り続ける。

 闘護の衝入拳は確実に銀牙にダメージを与えていき、銀牙の攻撃により闘護は体力の限界が近づきつつあった。

 次が最後の攻撃になる。お互いに残った体力は決して多くはない。

 己のすべてを拳に込めて拳打を放つ。

 闘護は腹にアッパーを、銀牙は顔にフックを放つ。

 顔にとてつもない衝撃を受ける闘護だが、歯を食いしばり踏ん張って耐える。


闘護

「おおおおおぉぉぉぉ!!」


 銀牙の腹にめり込んだ拳はさらに突き上げられ、遂には銀牙を真上へと殴り飛ばす。

 殴り飛ばされた銀牙は背中から床へと落ちる。

 銀牙はよろめきながらも立ち上がって構えを取る。


闘護

「こいつ、まだやるのか……!」


 息も絶え絶えで、膝は震えており、もう闘護に戦う力は残っていなかった。

 一歩踏み出す銀牙。

 だが、次の一歩を踏み出す事が出来ず、銀牙は膝から崩れ落ちる。


銀牙

「ば、バカな、この俺が……」


 限界を迎えた銀牙は床へと倒れ伏す。


闘護

「俺の、俺たちの勝ちだー!!」


 天高く拳を突き上げ勝利宣言する闘護。



***



 ──6月8日木曜日12時20分。


 愛煮田高校では午前の授業が終了し、昼休憩となっていた。

 愛煮田高校の校門で佇む少女が一人。

 昼飯までには帰る、その言葉を信じ陽織は校門で二人の帰りを待っていた。


陽織

「……あっ!」


 陽織の視線の先、そこにはボロボロになった男が二人フラフラと歩いていた。

 足にダメージを負っている太雅の肩を担いで闘護は敵地からの帰還を果たす。


陽織

「おかえり!」


闘護

「おう、竜法たちの仇を取って帰って来たぜ! それより飯だ! 腹減った!」

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バトル・オブ・ザ・ハイスクール シン01 @Shin-01

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